秋も深くなり寒い時期になると、鍋物を食べることが増える。今日の三時間飲み放題コースの料理のメインも鍋料理だ。

 白菜、えのき、にら、豚肉などお馴染みの具材が目の前に広がっている。その中に俺の胸をチクリと刺すものがあった。

「金子さん、お豆腐たくさんありますね」

 斜め向かいに座る森山だった。

「俺はこれがないと始まらないからな」

 そう言って笑って見せたが、何となく不自然な笑いになったのではないかと森山から目を逸らした。

 秋野と森山の結婚祝いの乾杯をし、ビールを飲むとビールの冷たさが体の中を走っていく。

 別れの場となった居酒屋に酒と豆腐。

 嫌でも思い出してしまうものだ。

 二年前、俺は四十歳だった。美春は、二十九歳。美春も今は誰かと結婚したのだろうか。

 別れる前の半年間、美春は会うたびに泣いた。