大林が居酒屋のドアを開け、先に店の中へ入る。その後からゆっくりと手で暖簾を分け、俺も店に入った。

 入って左にカウンター席が並び、マスターが慣れた手つきで焼き鳥をくるくるまわしながら、いらっしゃいと声を出した。

 美春と来たときに座ったのはカウンター席の端だった。壁側に美春が座ったはずだ。俺はわざとその席を見ないようにした。

 この居酒屋ではなく、ホテルの一室や美春の部屋で別れ話をされていたら、俺はどうなっていただろう。

 もしかしたら俺の平常心を保つために美春は、この場所を選んだのかもしれない。

 周りに人がいれば取り乱すこともない。美春はすんなりと俺と別れたかったのだ。

 あの日、俺は平常心を保った。好物の冷奴を肴に酒を飲むしかなかった。


 大林が幹事の名前を告げると、十数人が入れる小上がりの個室に案内された。

 個室があったのか。二年前は気が付かなかった。

 どうやら俺と大林が最後だったようで、主役の二人の方が先に来るのではないかと皆心配していたらしい。

 まだ、大丈夫だろと大林と二人で余裕を振りまいたが、十分もしないうちに森山と秋野はやってきた。

 森山が仕事や飲み会でいつも時間より早く来る几帳面だということを思い出した。

 全員から拍手で迎えられ、主役の二人は恥ずかしそうだ。

「どうも、どうも」

 頭をペコペコ下げながら二人は席についた。