昔の風

 目が覚めて時計を見ると、午前九時を回ったところだった。起き上がりカーテンを開けて外を見ると、小学五年生の長男の学が自転車で出かけていった。

 仕事机の上に指輪の箱が置いてある。指輪をはめてみたが第二関節のところで厚くなった皮に邪魔をされ、それ以上入らなかった。

「太ったのは俺の方か」

 指輪を箱にしまった。

 階段を下り、一枚のドアがある。そのドアを開け居間に入ると、真紀と目が合った。

「おはよう」
 
 声をかけた。

「おはよう」

 真紀の返事を聞き、食卓テーブルの椅子に座った。朝食の準備をする真紀の左手にあの指輪はまだない。今すぐ信じてもらおうなんて虫がいい話だ。

「朝ごはん食べる?」

「あぁ、食べるよ」

 食卓に二人分の朝食が並んだ。向かい合って朝ごはんを食べるのはいつ以来だろう。