「あ、あぁ……。そうだな」

 森山のことではなく、とうに終わった女のことを考えていた自分が恥ずかしくなった。何の意味のない咳払いをする。

「秋野と付き合っていたとは知らなかったなぁ。金子さん、気付いてました?」

 森山良恵が秋野雅也と付き合っていることを打ち明けてきたのは、半年前だった。その話しを聞いたとき、大林同様驚いた。

「まさか好きになるとは思っていませんでした」

 森山と秋野は同期の三十歳で、確かに仲は良かったが、男女の関係に発展するようには見えなかった。そのことを森山に話すと、金子さんに男女関係を掴む直感がある訳ないと笑われた。

「寂しくなるなぁ。あいつ、ムードメーカーだったし」

 俺も大林と同じ気持ちだった。森山はいつも明るく、周りを元気にさせる不思議なものを持っていた。

「今日って、どうして隣町でするんですかね」

「二人の新居がこっちに決まったらしい」

「へぇー、そうなんだ」

 この町なら会社の人間や知人に会うことはないだろうと美春と会うときによく利用した町だ。

 俺の視界に居酒屋の看板と提灯が見えた。やはり、そうだったか。

 森山の送別会と結婚祝いを兼ねた飲み会の知らせを聞いたときから、もしかしたら、とは思っていた。

 居酒屋の前に着き、確信した。美春との二年間の最後の日に来た居酒屋だと。