「水飲む?」

「あぁ」

「私もう寝るけど、お風呂なら沸いてるから」

 水をテーブルに置いて二階へ向おうとしたときだ。

「真紀」

 名前で呼んだのは久しぶりだ。呼んでみて自分で何故だかドキドキした。名前で呼ばれた真紀も戸惑っている。

「指輪どうした」

「ゆびわ?」

「結婚指輪だよ」

「何、急に」

 真紀は怪訝な顔をしている。

 それもそうだろう。突然名前で呼ばれて、結婚指輪のことを聞かれたのだ。戸惑うのも無理はない。

「持ってきてくれないか」

「どうして」

「頼む」
 
 数秒の間、俺たちはみつめ合った。これも久しぶりのような気がする。昔は熱いものを感じた真紀の瞳に今は冷たさを感じる。