タクシーから見える家の明かりに以前は舌打ちしたくなる気分になった。それが美春と会った後なら尚更だ。

 匂いを気にしたり、美春がわざと痕跡を残しているんじゃないかとスーツやズボンのポケットをチェックしたこともあった。


 今日も家の明かりが見える。玄関の扉を開けるとテレビの音が聞こえてきた。

「起きていたのか」

 居間のソファに真紀は座っていた。

「えぇ」

 真紀は俺と目を合わせずに答えると、ソファから立ち上がり台所へ向った。家の中を見回すと、朝テーブルに放り投げた新聞がラックに片付けられている。いつも過ごしている家の中を改めて見てみると、知らない世界のような気がしてきた。