男の方を見ると煙草を口にくわえ、何かを考えているように見える。俺と違って若いじゃないか。お前は、普通の男じゃないか。

 「マスター、勘定いくら」

 男は煙草を消し財布を取り出すと急いで支払いを終え、ドアへと向った。俺の背中に強い風を感じた。

「追いかけるんだ」

 森山が嬉しそうに言う。男は店を出て行った。

「うまくいくかな」

「悔いのないようにやればいいさ」

「うん」

 そう頷いて笑う森山の左手薬指には指輪が光っている。いつ頃だったかは覚えていないが妻の真紀の指からは外されていた。俺は、結婚してすぐ慣れないからと外したが、真紀はしばらくつけていたはずだ。

 食卓テーブルをはさみ、気まずそうに向かい合う俺と真紀。

「指輪どうしたんだ」

 やっと見つけた会話の一言だ。

「少し太ったから」

 太ったようには見えなかったが、特に関心はなかった。それよりも二人の息子が早く上から降りてきて、この空間を破ってくれないかと願うので一杯だった。