前に見たことのある風景だ。

 その風景は俺の心を揺さぶる。

 二年前の俺にとって、木田美春との日々は甘い時間だった。しかし、美春にとってそうではなかったと、この風景を見た後に俺は知った。

「かねさん」

 俺をそう呼ぶ女性らしい高い声と鼻にかけて話す美春が好きだった。ベットの中でささやくときの息づかいも。

 かねさんと愛らしく呼んでいたのが「金子さん」に変わったのは、この風景を見る一ヶ月前あたりからだ。

 呼び方が変わるということは、心の変化が起きていることだと何となくわかっていたが、離れていこうとしている美春を繋ぎ止める真似はしなかった。正しく言うと、する資格など何もなかったのである。

「金子さん」

 そう呼ばれて我に返った。俺に話しかけてきたのは、同じ会社で二歳下の大林だ。

 声の太さが全く違うしかも男の声にも関わらず、一瞬、美春に呼ばれたような気がしてどきりとした。

「森山のこと考えてたんですか?」

「森山?」

「寂しくなりますね。森山が寿退社なんて」