乗り込んだ観覧車は思ったよりも小さくて、緊張のせいもあって少しの息苦しさを覚えた。


「1周って何分くらいなんだろうね?」

「確か15分って聞いた事が」

「15分かぁー……」

ポツリと呟かれた榊原さんの一言を最後に、会話が途切れる。

榊原さんは、空に浮かんでいる小さな箱から外をぼんやり眺めていて……。


――話すなら今しかない。


ずっと伝えたいと思っていた自分の気持ちを口にしようと、言葉を発しかけたその時。


「本当は、“避けられたらどうしよう”とか情けないことばっかり考えてたんだ」

外を向いていた茶色い瞳がゆっくりと私に向けられ、その真剣な眼差しに息を飲んだ。


「お礼とか……可笑しいかもしれないけど、ありがとう」

「……」


あぁ、そうか。


「急にあんなこと言っちゃったから」

自嘲気味に笑う榊原さんは、きっとずっと気にしていたんだ。

だから今朝も「ありがとう」って……。


自分の気持ちを伝えた事で、私を困らせたんじゃないかとか……きっと思っていたんだよね?


「榊原さん」

「うん?」

もしかしたら今だって、そう思っているのかもしれない。


そうだとしたら――……


「私、榊原さんの彼女になりたいです」

「……え?」

「もちろん、まだこの前のお話が有効だったらですけど」


こんなに切なそうに笑う榊原さんを、一秒でも早く本当の笑顔にしてあげられたらって思った。


「私、榊原さんが好きです」

驚いて目を見開く彼の後ろには、キラキラと輝く横浜の夜景。


それに、ほんの一瞬見惚れた私の視界が遮られ、

「ありがとう」

抱きとめられた温かい腕の中で、今まで聞いた中で一番嬉しそうな彼の声を聞いた。


トクトクと、少し速い鼓動はきっと榊原さんのもの。

それに胸がギュッと締めつけられて、堪えきれずに小さな吐息を吐き出した。


観覧車の天辺から見える夜の街は、やっぱり榊原さんの部屋の地球に似ていて、思わず笑みが零れてしまう。


「この景色を、一緒に見たかったんです」

「え?」

「榊原さんが作った地球を見て、そんな物を作れる榊原さんをすごく好きだと思ったんです」


触れたプラスチック製の観覧車の窓はすごく冷たかったけれど……。

だから、すごく熱く感じたのかもしれない。


「……榊原さん?」

「うん」

「ん……っ」

「――好きだよ」


まるで言葉を飲み込むように、私の口を塞いだ榊原さんの唇。

熱があるんじゃないかとさえ思える、熱い唇に言葉を奪われて……。


「やっぱり合鍵あげるね」

息がかかるほど近い場所で囁かれた言葉に、私は再び瞳を閉じて。

甘くて長いキスを受け止めた。