恋するキミの、愛しい秘めごと




約束の週末。

車で迎えに来てくれるという榊原さんの到着を、玄関でソワソワしながら待っていた。


待ち合わせの時間とかを決めるために、何度かメールのやり取りはしたけれど……。

直接会って話すのはこの前の夜以来で、やっぱり緊張する。


「……」

こんな格好で大丈夫かな?

さっきから、玄関にある大きな鏡に自分の姿を映しクルクル回っている私は、きっと傍から見たら不審者か相当なナルシストのどっちかにしか見えないと思う。


いつも会っていたのは平日の仕事の後だったから、私服で会うのは何気に初めてで……。

デートの時に着て行く服さえ思いつかずに、会社帰りにファッション雑誌を2冊も買ったなんて恥ずかしくて人には言えそうにない。


ここしばらく“両想い”というものからすっかり遠ざかっていた私の恋愛レベルが、知らぬ間にダダ下がりしていた事に愕然ですよ。


取りあえず、お気に入りのニットワンピに落ち着いたオレンジのビッグカラーコートを合わせて、あまり甘々にならないように、年相応に。

たぶん、悪くはないと思うんだけど……たぶん。


「ヒヨ?」

「――わぁっ!!」

「……何そんなビビってんの?」

「いやっ、別にビビってないよ!」

ビ、ビックリした!!
本当はかなりビックリしたけど!!

てゆーか、寝てたんじゃないの!?


無駄にビクつく私に怪訝な視線を向けるのは、お昼ゴハンを食べた後に「眠い」と言って部屋に篭ったままだった寝癖頭のカンちゃん。


「な、何?」

別にこんなに慌てる必要はないんだけど、何となく……。

初めてのデートを、親に気づかれたくない中学生の心境に似通うこの気持ち。


そんな私の気持ちに気づくはずもないカンちゃんは、その場に立ち止まったまま、まだ眠そうにボーっとした様子で私を凝視して――「あのさ」と、徐に口を開いた。


「は、はい?」

考え込むような表情に、少しドキリとしたのも束の間。


「それは、どうかと思うんだけど」

「へ!?」

指をさされた足元に視線を落とすと、履いて行こうと思っていたショートブーツの隣の、仕事用のパンプスを履いている自分の足が見えた。

慌てて靴を履き替える私を見ながら笑うカンちゃんは、ものすごく楽しそうでちょっとムカつく。


「いいなー、デェト」

「……」

「俺もついて――」

「絶対イヤ」

本気とも取れる彼の言葉を遮って却下すると、「ちぇー」なんて唇を尖らせる。

それに溜息を吐いた丁度その時、鞄の中の携帯から着信を知らせる小さな音が鳴り響いた。


『――もしもし? 南場さん?』

「あ、はい。こんにちは!」

バタバタと電話に出ると、まだそこに立ったままニヤリと笑うカンちゃんと目が合って、

『着いたよ……って、どうかした?』

「い、いえ! すぐ行きますね」

慌てて背中を向け、電話を切った。


「……」

「行かないの?」

行く……けど。


「ねー、カンちゃん?」

「どした?」

「服、変じゃない?」

もう一度鏡を見ながら襟を直してカンちゃんに向き直ると、カンちゃんは少し驚いたように目をパチパチとさせ、

「可愛いんじゃねぇのー?」

せっかくセットした人の頭を撫で回してまた笑い、リビングに歩いて行った。