カンちゃんの背中を見送って、カップを洗ってお風呂に入り、私も自分の部屋に戻った。
「はぁー……」
ベッドに倒れこみ、大きなため息を一つ吐いたあと、手に握りしめた携帯をしばらく見つめてメールの作成画面を開く。
あの時すぐに返事が出来なかった私を、榊原さんはどう思っただろう。
「まだ早かったか」と言って笑ってくれた彼に、自分の気持ちをきちんと伝えたい。
でも、もう0時か……。
サイドボートの上に置かれた時計は、0時を少し過ぎた辺りをさしている。
いつもだったら、この時間はまだあの部屋で、夜明けを待つ地球を見つめながら話をしている時間だったのに。
どうしよう。
メールだけでも送っておこうか。
でも……何て送るの?
そこで動かしかけた指をまた止めて、しばし悩む。
するとその時、携帯の画面が切り替わり、静かな部屋にメールの受信音が響き渡った。
『さっきは急にごめん』
それは、そんなタイトルがつけられた……榊原さんからのメール。
「何か凄いかも」
運命かもしれないとか、そんな恥ずかしいことを言うつもりはないけれど、あまりのタイミングの良さについつい頬が緩んでしまった。
現金な自分に呆れつつも、それでも“嬉しい”という感情が湧き上がる。
『約束していた週末は、驚かせたお詫びに南場さんの行きたいところに連れて行くから』
『だから、出来ればキャンセルしないでもらえると嬉しいです』
――と、なぜか最後が敬語になって締めくくられているメールに思わず笑ってしまった。
だって何だか可愛らしい。
相変わらずの王子っぷりを発揮する優しい言葉で綴られたそのメールに、トクトクと鼓動が心地よいテンポを刻む。
きちんと会って、ちゃんとこの気持ちを伝えないと。
榊原さんの事が好きだからって、声に出してきちんと伝えたい。
榊原さんの言った通り、今は100%カンちゃんを忘れたとは言い切れないのかもしれないけれど、榊原さんとたくさんの時間を過ごしたらきっと変わっていけるはず。
カンちゃんとは昔みたいに“たっだのイトコ”に戻って、いつか「昔はお互いちょっとヤキモチとか妬いてたよね」って笑いながら話すんだ。
そんな未来を夢見ながら、作りかけていたメールの宛先に、呼び出した榊原さんのアドレスを打ち込む。
『週末、楽しみにしています。どこに行くかは当日のお楽しみでもいいですか?』
「“一応首都圏なので、安心して下さいね”……と」
そうメールを送った数分後。
『じゃー、車で迎えに行くね』
返ってきたメールに笑みを零し、その夜は温かい気持ちのまま眠りについた。

