「これは、宇宙から見た夜の地球」
「……宇宙」
濃紺の球体に、光に包まれた大陸が浮かび上がる。
それは、いつだったか――どこかで見た事がある物だった。
「南場さん?」
「……すみません。何か、感動しちゃって」
どこだっただろう。
どこかで見た事のあるそれは、何故か私の心を強く揺さぶって、気が付いた時にはひとりでバカみたいに泣いていた。
「これね、パソコンに繋いであって、前日の夜の地球の衛星写真が映し出されるようになってるんだ」
小さくしゃくり上げる私の横で、榊原さんが静かにそんな話をしてくれる。
驚いた事に、この球体は榊原さんが作った物だという。
彼がまだH・F・Rにいた頃、ロンドンにある美術館のフリースペースのプロデュースコンペを勝ち取る要因になった物だったこと。
それから、これがH・F・Rでの最後の仕事だったということ――それを話し終えた後、私の背中をポンポンと叩いて言ったんだ。
「この光の中に、物凄い数の人が住んでてさ、きっとみんな色んな事に苦しんで、悩みながら生きてるんだろうね」
「……っ」
キラキラ光る球体を見つたまま、まるで独り言のように口にしたそれは、きっと私に向けて話してくれた言葉。
前田さんのお店で、電話を終えた私の様子がおかしかった事に、榊原さんは気が付いていたんだ。
だから、たくさんの人々が暮らすこの丸い星を見せてくれた……。
「きっとね、その中には悩んでる人の話を聞いて、その人を助けたいって思う人なんかもいると思うよ?」
少しだけ冗談っぽくそう言いながら、私にマグカップを手渡す。
両手で包み込むように受け取ったカップは温かくて、気が付けばゆっくりと口を開いていた。
「……お兄ちゃんがいるんです」
「うん」
少しの嘘と、たくさんの本当が混ざり合うこの話は、まるで私の心の中みたいにゴチャゴチャだけれど。
榊原さんは、どこか淋しげな瞳を夜の地球に向けながら、何も言わずに話を聞いてくれていた。
「すごくヤキモチ焼きの、お兄ちゃんで……。自分には彼女がいるくせに、妹離れしていなくて」
「……」
「だけど、私も兄離れ出来ていなくて」
何かもー、言っている事が本当にゴチャゴチャ。
だけど、もう自分の中に押し込めておくには気持ちが大きくなりすぎて、誰かに聞いてもらいたいと思った。
「早く兄離れして、妹離れしてもらって楽になりたいのに……っ」
――それを、すごく淋しく思ってしまうんです。
私はバカだから、カンちゃんとの距離を取ろうとしているくせに、それでもカンちゃんの“特別”でありたいと思っている。
ホント、自分勝手でバカみたい……。

