恋するキミの、愛しい秘めごと


「最近、再就職をしたばかりで」

にこやかにそう口にする榊原さんに、地下鉄の中で聞いたカンちゃんの言葉を思い出す。


――最近、かなりやり手の社員を外資系の会社からヘッドハントしたらしい

さっきの反応を見ると、きっとこの人がそうなんだ。


見上げる榊原さんは、そこまでブランド品に興味がない私でも知っている、ハイブランドのスーツを嫌味なくスッキリ着こなしていて、浮かべる表情もすごく柔らかい。

少し茶色かがった髪の毛はカラーリングをしている感じではなく、瞳が同じ色なところを見ると、もしかしたら元から色素が薄いのかもしれない。


カンちゃんとはまた違うタイプなんだけど……きっとこの人もカッコいい。

しかも、私の大好きな王子様系――って、そんな事は別にどうでもいいんだけど。


こっそりドキドキしながらも、ついその顔に見入っていると、視線をパッと向けられて。

「俺もね、H・F・Rにいたんだよ」

「え?」

笑顔で告げられたその一言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

だって、こんな人がいただなんて聞いた事がない。


カンちゃんが敬語を使っているという事は、カンちゃんよりも期が上って事だよね?

しげしげとその顔を眺める私に「見過ぎじゃない?」と笑うその人は、すごく爽やか。

しかも優秀なプレゼンターというだけあって、話も面白く、プレゼンが始まる時間まで色々な話をしてくれた。


どうやらカンちゃんの二期上らしい榊原さんは、私が入社する前の年にH・F・Rを辞めて大手の外資系企業に再就職をしたらしい。

その後、三年間その会社に務め、今回長谷川企画からの熱烈なエールに根負けし、今に至る――と。


さすが熱望される人材とだけあって、プレゼンの腕も一流だった。

よく通る声もそうなんだけど、とにかく“話術に長ける”という感じで、あっという間に聞き手を引き込んでいく。


だけど、私には自信があった。

カンちゃんがこの人には負けないという、絶対的な自信。

私が自信を持つのはおかしいのかもしれないけれど、カンちゃんはこんなもんじゃない。


傍にいる私じゃなくても分かるくらい、すごく楽しそうに生き生きと語られるカンちゃんの企画案は、聞いているこっちまでワクワクした気持ちにさせられる。

この人と一緒に、この人が企画したものを創り上げて、それが周りの人間に広がり、どんな変化を起こしていくのか――それを見てみたくなる。

努力の上に成り立つ完璧なプレゼン。

もはや社の強みとさえ言われるそれを、カンちゃんはどんな時でも平気な顔をしてこなしてきたのだ。