恋するキミの、愛しい秘めごと


「さて、じゃーそろそろお開きにしようか」

店で飲み始めて1時間と少し経った頃、徐にグラスを置いた高幡先生に続いて席を立った。

いつもはもっとダラダラ飲んでいるのだけれど、きっと先生も気を遣ってくれたのだろう。


「またジャンヌ君と会えるのを楽しみにしているよ」

「はい!」

タクシーに乗り込んで、本当に嬉しそうに笑う高幡先生に日和も微笑み返し、去って行く彼を見送った。


「じゃー、俺達も行きますか」

「うん」

同じように通りに停車していたタクシーに乗り込み、ふと考える。


「ヒヨ、ホテルどこ?」

「パディントン駅のすぐ目の前のホテル」

「……ふーん」

「じゃー、」と、タクシーの運転手に日和が泊まっているホテルの名前を告げ、シートに体を沈めた。


「毎日忙しい?」

「んー? 何で?」

「カンちゃん、ちょっと痩せたから」

それに笑いながら「1人だとメシ作る気にならないだけ」と言って、心配そうに俺を見上げる彼女の頭を撫でる。

それから窓の外に視線を移し、流れる景色をぼんやり見つめた。


いつもと同じ道。

同じ街。

同じ景色。

雨が多いこの街の、どこか暗くしっとりした雰囲気も、今日は別物みたいに見える。

俺にとって日和の存在というのは、見える世界を変えてしまうくらい大きのかと――改めて気づいた自分の依存度の高さに笑ってしまった。


10分後、ホテルの前に到着したタクシーから日和が降りる。

「今日は急にごめんね。あと、ありがとう」

そんな事を言いながら、すごく嬉しそうにはにかんた日和だけれど……。

このまま帰すわけがないでしょう。


「……カンちゃん?」

「部屋どこ?」

驚く日和を差し置いて、さっさとタクシーを降りた俺は、その手を引いて歩き出す。

「え? 707……」

「707ね」

エントランスを抜け、鍵を受け取り、エレベーターに乗り込んで7階のボタンを押した俺を見上げ、日和は首を傾げた。


「カンちゃん、ここで大丈夫だよ?」

「……」

どうやら俺が部屋の前まで送り届けようとしていると思っている日和は、やっぱり警戒心が足りなすぎる。


「はい、じゃー10分で準備して」

「え?」

「荷物まとめたら、すぐにここ出るから」

「へ?」

「スタートー」

「え!? ちょ、ちょっと待ってよ!!」

慌てながら部屋に駆け込んで行くその背中を、笑いながら見つめる。

だって、せっかく“婚約者”になれたのに。

離れ離れの夜を過ごすなんて淋しすぎるだろ。