「カンちゃん」
「ん?」
「大好き」
「……」
――お前は本当に。
わざとかとツッコミを入れたくなる程可愛い上目遣いで俺を見上げ、「えへへ」と微笑むその様は、もう「理性を飛ばして下さい」と言わんばかりの可愛さで……。
「ヒヨ」
「え? ん……っ」
サラサラと指の間を滑り落ちる髪を梳きながら、もう何度目かわからないキスを落とした。
柔らかい唇をペロリと舐めると、ピクリと体を震わせて。
微かに開いた唇に舌を滑り込ませ、甘い口内を堪能する。
初めはなすがままだった彼女の舌が、俺のそれに応えるように動き出し、息をつく為に開いたわずかな隙間から、鼻にかかる吐息が漏れた。
ここが自分の仕事場だという事を忘れたわけではないのだけれど……。
――日和が欲しい。
湧き上がる気持ちを抑えきれず、背中を抱いていた手をゆっくり下ろし、シャツの裾から滑り込ませた。
「――っ」
俺よりも体温の低い、なめらかな肌。
手の平でゆっくり撫で上げると、日和の口から声にならない吐息が漏れる。
ヤバい。
止まらない。
もう一度深く口づけたあと、背中にあるホックに手をかけた――その時。
「カ、カンちゃん、ストップ!!」
いきなりすごい力で腹のあたりを押し返され、
「ゴホッ!! お前……みぞおちっ!!」
思い切りむせ返った俺に、日和がアワアワと慌て出す。
「だ、だって私、これから人と会う約束してて……!」
「はぁ!?」
何だこれ。
何でこんなにムードがないんだ?
しかも、人に会うだと?
「誰だよ!! “婚約者”って俺の事だったんじゃないのかよ!!」
「カ、カンちゃんだよ!! カンちゃんだけど、それとは別に先約が……!!」
さっきまでの甘い空気はどこへやら。
ギャーギャーとうるさい俺達の言い合いを止めるように、日和の携帯の着信音が部屋に鳴り響く。
「ほ、ほら! もう行かないと!」
「……」
「カ、カンちゃん?」
「……」
相手がどこのどいつだかは知らないけれど、俺との婚約初夜より大事な用事って何だよ!!
「カンちゃーん?」
「……」
「もーいいっ!!」
始めのうちは必死に俺の機嫌を直そうとしていた日和も、むくれる俺にムッとして、
「だったらカンちゃんも来ればいいでしょ!?」
最終的にはそう言い放ち、足元に落としたらしいカバンを拾い上げると、出口に向かってズカズカと歩き出した。

