「で? 真相は?」
「……そのつもり」
困ったように肯定の言葉を口にする日和に、ギリギリと胸が痛みだす。
「そっか。よかったな」
「……うん」
もっとちゃんと祝いたいのに、幸せなはずの日和にこんな顔させて……何してんだ俺。
2年という歳月が、恋をする期間として長いのか短いのかは分からない。
だけどあの日、俺の事を「好きだ」と言った日和は、その間にちゃんと前に進んで、好きな人を見つけて……幸せになる。
だけど俺は、昔と同じ。
いつまでも立ち止まったままで、全然成長していない。
もういい加減、綺麗サッパリ忘れないと。
「旦那は榊原さん?」
「ううん、違う」
てっきり相手は榊原さんだとばかり思っていたのに、「違う」と言った日和に少し驚いた。
でもまぁ、2人には2人にしか分からない事情があるのだろうから。
「じゃー、会社のヤツとか?」
「違うけど……」
さっきから、曖昧な返事しか返さない日和は、もしかしたら俺とこんな話をしたくないのかもしれない。
だけど日和から口を開く気配がないから、沈黙を避けるように、つい流れで言葉を繋いでしまう。
「ふーん。どんな人?」
「んー、優しい人。あと、面白くて、仕事も出来て」
「そっか」
やっと幸せそうに笑った日和に、少しホッとしながらも、胸の底からグラグラと湧き上がる自分勝手な感情。
本当に“今更”だ――。
「でも仕事が忙しくて、なかなか会えないし、その仕事も何してるのか正直よくわからないし」
「……は?」
それは大問題だろ。
「婚約指輪もくれないしね」
思わず眉根を寄せる俺とは対照的に、呑気な様子でヒラヒラと振られる日和の左手の薬指は空いたまま。
「ヒヨはそういうの『ちゃんと頂戴よ!』って怒るのかと思ってたけど」
仕事の話で相手に若干の不信感を抱きながらも、笑いながらそう言った俺に、日和は「そりゃー欲しいけど、くれないなら仕方ないでしょ」と少しだけ淋しそうに笑った。
「でもね、好きだからいいの」
「……」
“好きだからいい”――か。
そうだよな。
そんなのどうでもいいと思えるくらい好きになれる人を、日和は見つけたんだ。
それなら心の底から祝福しないといけないはずなのに……。
「……」
言葉が、上手く出てこない。
それどころか、口をついて出そうになるのは――やっぱり消し去ることの出来そうにない、日和への想いばかりで……。
「――あ、ごめん」
鳴り出した携帯の音にハッと顔を上げると、メールの受信音だったのか、日和がその画面を見つめて柔らかい笑みを浮かべる。
「……っ」
今更だろ。
どうして俺は、こんなに――
「ごめん、カンちゃん」
「ん?」
「そろそろ行かないと」
「そっか」
――こんなに、日和じゃないとダメなんだろう。
旦那になるその男からのメールなのか、瞳を伏せて申し訳なさそうに呟いた日和は、カバンに携帯をしまいこんで柔らかく微笑む。
「またいつか連絡するね」
「おー」
改めて気づかされた、誰よりも日和を愛しく想う、変わる事のない気持ち。
俺は、このままでいいのか?
「じゃー、またね」
“いつか連絡する”って、いつだよ?
結婚式の招待か?
「……」
そんなの、耐えられるはずがない。

