まったく、ボブのヤロウはしょーがねぇな。
「Sorry,it’s forbidden to come in here.……」
仕方がなく後ろを振り返り、立ち入り禁止だと声をかけた俺は――……
「忙しそうだね」
そこに立っていた“最後の客”を見て、言葉を失い息を呑んだ。
「出直して来た方がいい?」
「……」
「カンちゃん?」
――どうして。
「おーい! 大丈夫?」
「……ヒヨ?」
「うん?」
どうしてヒヨが、こんな所にいるんだ?
全くもって状況が理解出来ていない俺の脳裏に、テキトーボブの含み笑いが浮かぶ。
「……」
あのヤロウ、たばかったな……?
振り返った俺の背後に立っていたのは、紛れもなく俺のイトコの日和。
もうしばらく逢うことは出来ないだろうと思っていた彼女が、何故かそこにいた。
前よりも伸びた、暗めのアッシュブラウンの髪が、首を傾げた彼女の肩から滑り落ちる。
「――っ」
どうして“今”なんだ。
よりによって、こんな日に。
冴子のメールで、また日和の事を思い出して――だけどそれだって、それ以上の波風が立たなければ、胸の奥底に鎮まる想いのはずなのに。
どうして、日和の結婚を知ったその日に、こうして逢ってしまったのだろう。
バクバクと速まる鼓動を鎮めるように、静かに息を吐き出した。
そして、日和に向き直り、
「ボブに騙された」
「へ?」
「最後の客はブロンド美女だって聞いてたんだけど」
まるで何事もなかったかのように、笑いながら冗談を口にする。
日和がそれに、「ブロンドじゃないけど美女でしょ?」って勝ち誇ったように笑うから、小馬鹿にしたように鼻で笑ってやった。
「入れば?」
そう促すと、トコトコと俺の横まで歩み寄って隣にしゃがみ込む。
その瞬間、ジャスミンの花の香りがほのかに漂う。
たったそれだけの事で、心臓がドクンと音を立て、また胸がざわめいた。
「何してんの?」
「んー? ちょっとした模型作り」
コロコロ転がる、天体やら人工衛星の模型を見て興味津々の日和は「へぇー」と、小さな地球の模型を手に取って楽しそうにそれを眺める。
その顔は、昔と変わらない。
キラキラした大きな瞳を、嬉しそうにクリクリさせて。
「すごいね。こんなのも作るんだ」
「作れる物は何でも作らされるんだよ」
動揺を外に出さないように、手元の模型に視線を落としながら話をして、ひと段落した所で工具をしまい始める。
「終わり?」
「んー? まぁ」
どうせ“バカンス”とやらを取らない俺は、明日もここで仕事をするつもりだし。
そんなはずがないと分かっていながらも、自分の心臓の音が日和に聞こえてしまいそうで、距離を取るように立ち上がった。
「ひとりで来たの?」
「……」
俺の質問に、少し困ったように視線を逸らした彼女に胸が痛くなる。
こんな事、聞くだけムダなのに。
「結婚するんだろ?」
それが嘘なんじゃないかって――諦め悪く、否定の返事を待っている自分に気が付いた。
だけど日和は、立ち上がって俺を見上げ「誰から聞いたの?」と少し怪訝そうに眉根を寄せる。
それに「冴子」と答えると、納得がいったのか「ホント、困った人」と柔らかく微笑んだ。

