恋するキミの、愛しい秘めごと


「あーもー、何かこう……モヤっとするんだよなー」

手に持っていた工具をその辺に放り投げ、床に寝転びながら天井を見上げる。


そのまま目を閉じてしばらく考え込んでいると、ドアが開く音がして。

目を開けてそちらを見ると、でっかい腹をした、でっかいボブが立っていた。


「ヘイ、カンジ!」なんて、俺と180度違う楽しそうなテンションでやって来たボブは、ゆっくり起き上がった俺に、いつもの5倍くらいご機嫌な笑顔を向ける。


これは……。

「カンジ、頼みごとがあるんだ」

やっぱりな。


俺の怪訝そうな表情にワザとらしく肩を竦めたボブは、相変わらずのテンションでその“頼みごと”とやらを口にした。


「最後の見回りと、施錠をお願いしてもいいかな?」

「……おー、いいよ」

大した頼みごとではなかった事に若干拍子抜けしながら返事をすると、聞いてもいないのに「俺、明日からバカンスだからさー、早く帰んないと」なんて。

どうせ俺は、休む気さえないですけどね。


「はいはい、新しいガールフレンドによろしく」

手をひらひら振って作業に戻ることにした俺に、ボブは入り口の施錠は終わっている事と、客は最後の1人が残っているだけだと告げて帰って行った。


こっちに来るまで知らなかったが、イギリス人というのは意外と適当。

王室の人間をテレビで見るくらいだったから、あーいう真面目そうなイメージを持っていたのに……。

そう言ったら同僚達は口々に「日本人がクレイジーなほど真面目すぎるんだ」と騒ぎ出して止まらなくなった。


「ボブあたりは、もうちょっと真面目でもいいんじゃねーか?」

夜勤の守衛と交代する前に、職員に仕事を押し付けて帰るとか。

でもまぁ、“バカンス”らしいから仕方がないか。

おかげで一度切れた集中力も戻ったし、続きに取り掛かろうと工具を握り直す。


「 Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are――」

またひとりになった部屋で、いつもの歌を口ずさみ、工具箱からネジを取り出した時だった。

背後でカタンという小さな音がして、そう言えばボブのヤロウがドアを開け放ったまま帰って行った事を思い出す。


ドアが開いている部屋は、観覧可能。

閉まっていれば、立ち入り禁止。


テキトーボブのせいで、展示室だと勘違いした“最後の客”とやらが、部屋に迷い込んだのだろう。