それから彼は、手元のタブレットをポチポチといじって、仰向けにゴロンと寝転がってしまった。


「カンちゃん?」

「んー?」

「どうしたの?」と訊ねようと唇を開きかけた時、部屋唯一の灯りのダウンライトが消灯し、何事かと天井を見上げると腕を掴まれて……。


「うわっ!! ちょっと、何!?」

グッと引っ張られて、カンちゃんに覆いかぶさるように倒れ込んでしまった。


「――っ」

目の前には、真っ直ぐに私を見つめるカンちゃんの瞳。

腕を掴む手に、力がグッと込められて……思わず目をつぶった。


「……」

――でも。

あれ?

それから特に何も起きる気配がなくて、恐る恐る目を開ける。

するとそこには、優しく目を細めるカンちゃんの顔があった。


「ヒヨも寝転がってみ」

「は!?」

寝転がってと言われても、スカートだし、ドレスだし。

どうしようかと躊躇していると、肩を掴まれ隣に無理矢理コロンと転がされてしまった。


な、何なの?

ホントに意味が――。


「え? これって……」

「うん。これが見せたかったんだ」


決して柔らかいとは言えないカーペットの上。


そこに寝転ぶ私の瞳に映ったのは――……


「す……ごい」

「だろー? だって、俺の自信作だもん」


ドーム型の天井いっぱいに広がる、星空だった。


今まで見たプラネタリウムなんて比じゃない。

見上げた先には、人工の物とは思えないくらい――まるで本物の星空みたいに、小さな星がキラキラと瞬いていた。


「カンちゃんが……作ったの?」

「まぁ、俺だけじゃないけど」

「すごい、本当に」


言葉に詰まり、知らぬ間に零れていた涙が、こめかみを伝い落ちる。


この時初めて――言葉にならないくらい程の感動は、涙に変って溢れ出るのだ――という事を知った。


「ヒヨ」

「うん」

空の光から瞳が逸らせず、天井を見つめたまま返事をした私を、カンちゃんはクスッと笑って静かな声で言ったんだ。


「ヒヨは、俺の子供の頃の夢って覚えてる?」

「えっと……“宇宙飛行士”?」


突然の質問に驚きながらもそう答えると、自分で聞いたくせに、何故かカンちゃんは驚いたように目を見開いて。


「でも、それはどうしても叶いそうにないから。代わりに、コレ」

天井をヒョイッと指差したカンちゃんに、思わず笑みが漏れる。


「じゃーコレは、代替品ってこと?」

「まぁ、そんなとこだな」

「随分贅沢な代替品だねー……」


そう呟きながら、考えていた。

もしこれが“カンちゃんの夢”だとしたら、この後カンちゃんはどうするつもりなのだろう?

そんな私の思考をよんだのか、カンちゃんはフーッと息を吐き出して、

「日和」

私の名前を静かに呼んだ。