まだ植えられたばかりの芝生の真ん中を突っ切るように、真っ直ぐ伸びる石畳を歩き、ライトアップされた建物の横を通り抜ける。
「カ、カンちゃん? どこに行くの?」
石畳から逸れたそこは、少し足場の悪い土の上。
そこをヒールで歩く私に気が付いて、前を歩くカンちゃんが手を差し伸べてくれた。
「……すっかりイギリス人になっちゃったんですね」
「何だそれ」
その手を握りながら、照れ隠しに口にした言葉を聞いて、カンちゃんが楽しそうに笑う。
だけどこっちは、わけが分からなくてそれどころじゃないんだから。
さっきから、心臓が痛くなったり、ドキドキしたり……。
ここ数時間で、自分の寿命が縮まっている気がしてならない。
そんな私の心配を余所に、どんどん歩みを進めるカンちゃんは、博物館の入り口の真横辺りにある扉の前で立ち止まり、胸ポケットからカードを取り出した。
それをドアの横の機械に通すと、暗闇に“ピー”という電子音と、カチャリとカギの開く音が響く。
「よし、行きますか」
そのまま鉄のドアに手をかけ強く引き開けたその先には、薄暗い廊下が伸びていた。
先にそこに足を踏み入れたカンちゃんが、右手の小さな窓口に向かって英語で何かを話しかけると、中から紺色の制服を着たお腹の大きなおじさんが顔を覗かせる。
そして「I'm Bob」と自己紹介をした後、私をジッと見つめて――「Come on in!」と、親指で先に続く廊下を指しながら、ニヤリと笑った。
一体何が起きているのか……。
やっぱり状況が理解できないまま、どうやら守衛だったらしい“ボブ”にたどたどしくお礼を言って、さっさと歩き出したカンちゃんの後を追った。