たっぷりある仕事を終えて家に帰ると、もう夜の10時近くになっていた。

「ただいまー」

と声をかけたところで、まだカンちゃんが帰って来ていないのは知っているから、返事がないのもわかってるんだけど、いつの間にかそうする癖がついていた。


真っ暗なリビングの電気をつけて、ポストに入っていた郵便物をテーブルに置く。

「さて……」

本当は今週の食事当番はカンちゃんなんだけど。

会社での忙しい彼の様子を知っているし、きっとお腹を空かせて帰ってくるであろうことも知っている。

そんな頑張り屋さんのカンちゃんの為に、今日は親子丼を作ろうじゃない。

はりきって腕まくりをして、開けた冷蔵庫から玉ねぎと鶏肉を取り出して……。

「あー、どうしよう」

とっても大事な卵がないことに気が付いた。


仕方がないから、それは後で買いに行くことにして、取りあえず玉ねぎと鶏肉を切って、だし汁と一緒にグツグツ煮込む。

「丼ぶりものを考えた日本人って、ホント天才だよね」

くだらない事を呟きながら、一人ぼっちの部屋にいかにも“和食”の香りが漂い始めたところで火を止めて、30分前に脱いだジャケットを再び羽織り家を出た。