「日和」
「うん」
そんな顔しなくても大丈夫だよ、カンちゃん。
ちゃんと解っているから。
「もういい加減、先に進まないと」
一瞬伏せた瞳を私に真っ直ぐに向けたカンちゃんの一言に、拭いきれなかった涙が頬を伝い落ちて行く。
それにカンちゃんは少し顔を顰め、「そんなに泣くな」と苦笑して、
「日和」
「……うん」
「例えば俺が、ここからいなくなったら寂しい?」
そんな質問を投げかける。
「……わかんない」
――なんて、寂しいに決まってる。
だけど、これからカンちゃんが自分で決めた、何らかの行動を起こそうとしているのであれば、その邪魔はしたくないと思った。
「“わかんない”って薄情だな」
「だって……どこか行くの?」
「わかんない」
人の真似をしてクククッと笑ったカンちゃんは、そのまま私の頭に自分の頭をコトンと乗せて、
「これからはイトコとして、日和のことを大切にする」
「……ん」
「イトコとして、ちゃんと日和の幸せを願うから」
「うん」
胸を抉《えぐ》るような言葉を、どこまでも柔らかく優しい声で紡いだ。
苦しいけれど、こうするのが一番だという事は、ちゃんと解っている。
カンちゃんには篠塚さんという彼女がいて、私はただのイトコになる。
これでいいんだよ……。
それが解っていながらも――もしも今私が、「カンちゃんのことが好き」って言ったら、カンちゃんはどう思うのかな?――なんて。
そんなことを言ったら、優しいカンちゃんは悩んで、悩んで、バカみたいに悩んで――あの地球を私に渡した事を後悔して、自分を責めるから。
「カンちゃん」
「ん?」
「これ、ありがとう」
「……」
「ずっと大切にするから」
「おー。そうしてくれ」
だから私は、少しでも早くこの胸の痛みが消え去って、また穏やかな時間が訪れるようにと……。
自分の気持ちを小さな箱に押し込んで――彼が安心して先に進めるように、笑うんだ。

