手元の小さな透明の板に視線を落とすと、金色のいくつかの模様が描かれていた。
人差し指でその1つにそっと触れる。
すると――。
「……綺麗」
ポツリポツリと。
まるで暖炉の薪に火が灯るように、真っ黒だったガラスの球体に光が灯っていく。
それがゆっくりと、6つの大陸を模っていき……キラキラ光る“夜の地球”に変わっていった。
「正解。ヒヨはそれを1番に選ぶと思った」
「……どうして」
「ん?」
「どうして、これを――っ」
今更、私に。
カンちゃんにそんな質問を投げかけながらも、彼の表情から、その理由に気が付いていたのかもしれない。
だから、気づいた時には小さな地球の灯りが滲んで……。
その上に、ポタポタと温かい雫が落ちていた。
「日和」
ほら。
いつもは「ヒヨ」とか「ヒヨコ」とか呼ぶくせに、こんな時ばっかり“日和”なんて呼ぶんだ。
だから嫌でも気づいてしまう。
カンちゃんがこの後私に告げようとしている事が、どれほど真剣なものなのか解ってしまう。
「榊原さんが昨日、日和に話した通り、俺はずっと日和のことが好きだった」
そう言ってカンちゃんは、黒目がちな瞳を細めながら、そっと伸ばした指で私の涙を拭う。
笑っているはずのカンちゃんの瞳は、小さく震えているようで、見ているこっちが苦しくなる。
「俺は狡い」
「……」
「自分で日和から離れて、“お兄ちゃん”なんて言って線を引いたくせに……それでも自分は、日和の特別な存在なんだって思いたがってる」
「……」
「日和を抱いたのだって、俺が耐えられなかったからだ」
まるでそうする事で、自分の気持ちを一つ一つ、お墓に埋めていくみたいに、カンちゃんは自分の抱いていた想いをポツリポツリと口にして。
「でも、それじゃダメなんだよな」
その後に続く言葉が分かってしまったから――心臓が止まるんじゃないかと思うほど胸が痛んで、閉じた瞳から、またポロポロと涙が零れ落ちた。
もっと触れていて欲しかった。
大きくて温かい、その手で触れていて欲しかったけど……。
そっと離れたカンちゃんの手に、ゆっくりと瞳を開いた。

