「初めのうちは罪滅ぼしの気持ちもあった」と言ったカンちゃん。
だけど、あの一件があってから、社内のカンちゃんに向けられる目がまた増えた。
「同情してくる人もいれば、自業自得だと罵ってくる人もいたし、何かおこぼれ的に仕事が回ってくればと近づいてくる奴もいた」
「……」
「だから、全てを知っている冴子といるのは俺も楽だったんだ」
自嘲の笑みを浮かべるカンちゃんに、私はどんな声をかければいいのだろう。
その頃のことを知りもしない私は、かける言葉も見つけられずに、涙をこらえて話を聞く事しかできない。
「“好きだ”って思う感情があったのも嘘じゃない」
「……うん」
何も知らずに、のうのうと暮らしていたくせに、カンちゃんと篠塚さんの過ごしてきた時間に、不謹慎にも胸を痛めながら――。
「だけど、お互いがお互いを想ってるようで、お互いどこかにいる違う人を見てたんだろうな」
そう言って笑ったカンちゃんは、いつものように私の頭を少し乱暴に撫でる。
――そして。
「これあげる」
「え?」
呆気にとられる私の目の前に、白い紙袋を差し出した。
これは何だろう……。
思わず眉間に皺を寄せると、「いらない?」と没収されそうになって慌てて手を伸ばして受け取った。
袋の中を覗くと、中には更に20センチ四方の白い箱。
「これ、何?」
「いいから開けてみ」
首を傾げる私の表情がそんなに面白かったのか、カンちゃんはフッと笑みを漏らしながら再びマグカップに口をつける。
そして、ユラユラと立ち上る白い湯気を吸い込むように、ゆっくりと息を吸い込んで。
「今更だけど」と言葉を継ぎ足す。
――“今更”。
それは昨日の夜、私の頭の中をずっと回っていた言葉と同じ。
そして昨日の夜、榊原さんが口にしていたものとも同じ。
ズキンという小さな痛みを胸に感じながらも、言われるままに小さな白い箱を開けた。
「これ……」
箱を開けた手が、小さく震え始める。
だって、これは――。
「そう。それが本物」
「……」
「ヒヨに渡したかった、本物の“地球”」
あの頃のカンちゃんの気持ちが詰まった、“小さな地球”だ。
「出してみて」と促されて触れたそれは、あまりに繊細で、力加減を間違えたら簡単に壊れてしまいそう。
「ガラス……?」
「そう。薄いガラスの間に、薄い液晶フィムが挟まってんの。――で、これがスイッチ」
カンちゃんは、箱の底に入っていたボタンのついた透明な板状のものを取り出し、私に手渡した。
真っ黒な球体を膝の上に乗せ、震える指でそれを受け取る。
「好きなボタン押してみな」
油断したら泣き出してしまいそうな私とは裏腹に、カンちゃんはまるで大好きなオモチャで遊ぶ子供みたいに、楽しそうに微笑んだ。

