『俺だって、弟と妹に頼まれたら断れないだろう。それに、これで日和に悪い虫がつかないなら一石三鳥』

「だからってーー」


反論しかけた私の耳に、インターホンの音と、それに続くカンちゃんの「引っ越し屋来たぞ」という声が聞こえた。


『まぁ、とりあえず一緒に暮らしてみたらいいじゃないか。あと、俺は海外赴任が決まったから、明日から環境整うまで音信不通になるから』

「え!? ちょっと、伯父さん!?」


次の瞬間には、慌てる私の手に握られた携帯は“ツーツー”という電子音だけを虚しく響かせる、役立たずの物体になっていた。


「ヒヨ? 引っ越し屋、そろそろ来るぞ」

脱力しながら廊下に座り込む私の前にカンちゃんがしゃがみ込む。


「大丈夫か?」

「……部屋、探さなきゃ」

独り言のように呟く私に、カンちゃんが目を瞬かせる。

そしてケロリとしながら言ったんだ。


「別にここに一緒に住めばいいじゃん」


正に“ケロリ”という言葉がぴったりのその顔に、ひとりで動揺していた自分がやっぱりアホらしく思えた。


それから、全身の力が抜けてしまった私の耳に二度めのインターホンの音が聞こえ、カンちゃんが玄関のドアを開けて……。

空き部屋だったのか、私の為に開けてくれたのかわからないガランとした部屋に、私の全ての荷物が運び込まれた。