「……は?」
反応するまでに、軽く15秒はかかったと思う。
「“は?“じゃなくて。ここは俺様の城だったのに、伯父さんからいきなり電話きてさー」
「……」
「“明日から日和もそこで暮らすから”とかさー」
「……」
「いくら自分のマンションとはいえ、横暴だと思わん?」
何それ。
「ヒヨ?」
“そこで暮らす”?
「おーい、ヒヨ?」
“そこ”って、
「ヒヨコ! ひよこ豆!」
「……ここかっ!?」
「は!?」
いやいやいやいや、あり得ない。絶対におかしい。
伯父さんもカンちゃんも何か勘違いしてるに違いない。
だって私はそんなこと一言も聞いてない。
「……」
だけど、ふと思い出した電話での伯父さんの最後の一言。
ーー『まぁ、色々大変かもしれないけど、日和だったら大丈夫だろう。宜しく頼むよ』
ずっと使っていなかった部屋だから、掃除が大変で、それに対しての“色々大変かもしれない”だと思っていたのに。
しかも「宜しく頼む」って、一体何を頼まれたの?
少しだけ感じた違和感の正体に、今さら気がついた。
「でんわ……」
「ん?」
「伯父さんに電話してくる!!」
呆気に取られるカンちゃんをその場に残し、伯父さんに電話をかけるために廊下に飛び出す。
だってあり得ない。
相手はイトコだけど、一応男でしょう!?
私だってお年頃のムスメなワケだから、一緒に暮らせるはずがない。
『……もしもし? 日和か?』
「ちょっと伯父さん!! どういうこと!? カンちゃんがいるなんて聞いてないよ!!」
数回のコール音の後、なぜか嬉しそうに電話に出た伯父さんとは対象的に、私は食ってかかる勢いだ。
でもそれって当たり前でしょう!?
それなのに電話の向こうの伯父さんは『おー、完治は元気にしてるか?』と、何とも頓珍漢なセリフを口にする。
「私、聞いてないんだけど」
打てども響きそうにない相手の反応に、ひとり憤っている自分がバカらしく思えて、少しだけ冷静になってきた。
だけどやっぱり困る事に変わりはなくて……。
そんな私に、伯父さんは言ったんだ。
『君らの両親にお願いされたんだから、仕方ないだろう』ーーと。
全く意味が解らない。いや、解るはずがない。
私の両親曰く――……。
『大都会での(どこか抜けている)女の子の一人暮らしは危険だから、誰かが一緒だと安心なんだけど……。
あぁ、そう言えば完治が薫兄さんのマンションにいるじゃない。一緒に住ませてあげて。
これで安心だわー』
カンちゃんの両親曰く――……。
『完治ってば、大学時代に結構やんちゃな暮らししててねー。
今は少しマシみたいだけど、放っておくと何か月も連絡が取れないの。
そうだ、ヒヨちゃんが一緒に住んでくれたら完治も少しはしっかりするかもしれないし、生死の確認も出来るじゃない。
これで安心だわー』
伯父さんの意外にも長くなった話を掻い摘んで説明するとそういうことらしい。