「お邪魔します」

「おー、お疲れさん」

ドアの外からかけたカンちゃんの声に、何故かサンタさんを連想させる穏やかな声が聞こえる。


「……失礼します」

カンちゃんの横に進み出て挨拶をすると、そこには驚いたように目を見開く高幡さんの姿があった。

だけど彼は、次の瞬間には声によく似合う穏やかな笑みを浮かべて、

「ジャンヌ君も一緒だったか」

そんな言葉を口にした。


ジャンヌ……君?


キョトンとする私に向けられる瞳が、ゆっくりと細められる。


「“ジャンヌ君”って、もしかしてジャンヌ・ダルクですか?」

クスクスと笑いながら、慣れた様子で中に入っていくカンちゃんは、そのまま部屋の隅にある食器棚の中からカップを3つ取り出し、コーヒーを注いだ。

その1つを高幡さんに手渡し、残りの2つを窓辺にあるテーブルの上に置き私を手招く。


“ジャンヌ・ダルク”――100年戦争でフランスの勝利に大きく貢献した、言わずと知れた英雄……。

その呼び名の理由を考えていると、高幡さんは座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、私に向き直って言ったんだ。


「よく戦ったね」

「……っ」

あぁ、そうか。

だから――“ジャンヌ君”。


「凄くいいプレゼンテーションだった。だけど、次からは気を付けるんだよ?」

「は……いっ」


この人は、やっぱりカンちゃんに似ている。

――ううん。

もしかしたら、カンちゃんがこの人に似ているのかもしれない。


「あの、」

「うん?」

「今日は、本当にありがとうございました」

震える声を精一杯絞り出しながら頭を下げる私の横で、カンちゃんも同じように頭を下げる。


すると肩に温かい手が置かれ、ゆっくり顔を上げると、高幡さんはフッと笑いながら口を開いた。


「お礼なら宮野君に言うといい」

「え?」

「普段人に頭を下げないヤツに、あんなに頭を下げられたら聞くほかないだろう」

「……それ、誰の事ですか?」

子供のようにじゃれ合う2人を尻目に、一気に涙腺が緩んでしまった私は、年甲斐もなくバカみたいにボロボロ泣き続けた。