4時間後、沢山の瞳が向けられる壇上で、私はゆっくりと息を吐き出した。
あぁ……。
やっぱり緊張する。
ライトを浴びる壇上から見える景色は、どうしたって“ジャガイモ畑”になんて見えなくて、パソコンの前に座るカンちゃんに視線を向ける。
――だから、似てないって。
それに少しだけ口元を緩めた彼は、いつも「似てない」と言っているのに止めようとしない向井君のキメ顔のマネをして、ヘッと小馬鹿にしたように笑った。
てゆーか、“変顔=向井君のキメ顔”ってどういう事よ。
本当はちょっと許し難いけれど、それでもポインターを持つ手の震えは治まったから、許してあげよう。
「私ども、ハナビシ・フューチャー・リノベーションが提案させて頂くのは、海底4メートルからの景色を眺めるカフェです」
私の言葉に、最前列に並ぶクライアントサイドが小さく首を傾げている。
それにドキドキしながらも、次の言葉をゆっくりと紡いだ。
「“水深4メートル”というのは、ある海藻が、海面からの光で生存出来る――“生育限界水深”と言われている深さです」
聞き取りやすようにタイミングを図りながら話を進める私は、ある事を確信していた。
目の前に座る、私の瞳をジッと見つめる白髪で白ヒゲを生やした男性。
きっとこの人が、カンちゃんの“師匠”だ……。
机の上に肘を付き、組んだ指に顎を乗せて。
ただ真っ直ぐに私を見据えるその瞳は、まるで私を試すように鋭い。
――でも。
鋭さの中に、まるで見守るような優しさも感じさせるその目は、どこかカンちゃんに似ていてる気がした。
「以前、 海洋大学に付属されている水産研究所とお仕事をさせて頂く機会がありました」
この代替案を思い付いた時、カンちゃんは私に「さすがヒヨ」って言ったけど。
それに繋がる仕事を経験させてくれていたのは……カンちゃんなんだよ。
「その際、大きな大きな水槽に優然と揺れるナガコンブの群れを見ました」
海面から零れ落ちる、僅かな太陽の光の下で揺れるナガコンブは、自然界では16メートルもの長さまで成長する事もあるという。
「仄暗い海底で、生い茂る海藻の群生の中から空を見上げているようなあの景色は、まさに圧巻でした」
暗い海底に、時折差し込む木漏れ日のような太陽光。
その中で、ゆったりと揺れる大きな海藻。
暗く淋しい場所だと思っていた海底は、すごく美しく、優しい場所だと思った。
今でもあの光景は脳裏に焼き付いていて、「研究用なので一般公開はしていないんです」という、准教授の言葉をすごく残念に思ったんだ。
「私どもは、博物学を学びながらも普段の生活では見る事が出来ない、“本物の別世界”を創り上げたいと考えております」
20分のプレゼンテーションを、そんな言葉で締めくくった。

