「……」
カンちゃんが出て行ったあと、彼が借りてくれた小会議室でパソコンに向う。
限られた時間の中で、一体何が出来るだろうか。
そこを間違えないように、とにかく考えて考えて、考える。
代替案を出すとしたら、自分が前に作った物よりも良いものを考えないといけない。
しかも、以前の物を感じさせない内容で――だ。
短時間で作り上げるにしても、可能か不可能かを見極める際に、専門家の判断を仰ぐ必要もあって……。
そうなると、一から話している時間はなく、以前協力してもらった人達に再びお願いした方が効率的だ。
勿論……以前の物が使えなくなってしまったわけだから、謝罪も必要になってくるけれど。
そこは改めて伺って、顔を見て直接謝ろう。
とにかく今は、お願いし倒して協力をしてもらうしかない。
一人きりの会議室はしんとしていて、壁にかかる時計の秒針の音だけが響き続ける。
――宇宙。
私と榊原さんを繋ぐ、一番大切な物だったはずなのに。
皮肉にも、それがこんな結果を招くなんて笑ってしまう。
一体彼は、どうしてこんな事を……。
何か理由があったの?
一瞬集中力が途切れて、頭に浮かんだそんな言葉。
ズキンズキンと音を立てるように痛み出した胸をグッと押さえて、長い息をゆっくり吐き出した。
今はそんなくだらない事を考えている場合じゃないのに。
「……っ」
頭では解っているけれど……心が上手く制御出来ないんだ。
今更くだらない、バカみたい。
そんな思いとは裏腹に、視界が滲み始めたその時。
目の前のドアがガチャリと開き、ハッとして顔を上げた。
「何かいいの浮かんだ?」
部屋に入って来たのは、勿論カンちゃん。
目の前に差し出された缶コーヒーに手を伸ばすと、自販機で買って来てくれたのであろうそれの温かさにホッとした。
――だけど。
「……まだ、」
まだ何も浮かばない。
カンちゃんは、受け取った缶を両手でギュッと握りしめる私をクスッと笑って、頭に手をポンと乗せて言ったんだ。
「まだ1日の6分の1以上の時間がある」
「……」
「そう考えると、4時間ってすげー長いな」
ナデナデと頭上の手を動かしながら笑う彼に、私もつられて僅かではあるけれど笑みを漏らしてしまう。
だって、どれだけポジティブなの。
「因みに、データの差し替えは何とかなりそう」
「ほ、本当?」
驚く私に「嘘吐いてどーすんの」と突っ込むと、そのまま隣の席に腰を下ろした。
「ナイショだけどね、クライアントの担当者に大学時代の師匠がいるのよ」
まるで何でもない事と言わんばかりに、悪戯っ子のようにニヤリと笑うけれど……。
「ありがとう」
「……」
「頑張るから」
それだって、自分の築き上げた信頼を失う覚悟で、必死に頼み込んでくれたんでしょう?
「絶対負けたくない」
やっと出た私の前向きな言葉に、カンちゃんは驚いたように瞳を見開き――「そうこなくっちゃ」と、嬉しそうに笑った。

