恋するキミの、愛しい秘めごと



「ただいまぁー……」

慌ただしい日々を何日も過ごし、プレゼンまであと1週間。

すっかりグロッキーな私は、玄関のドアを開けてフラフラと廊下を進む。


「おー、お帰り」

「あぁ……ゴメンね、カンちゃん。代わるよー」

「別に平気。もう出来るから、着替えて来な」

リビングに入ると、今日は私が当番にもかかわらずカンちゃんがゴハンを作ってくれていた。

おたま片手に土鍋を覗き込む様子は、さながら旦那様の帰りを待つ若妻のよう。


「カンちゃん……」

「何?」

「今度エプロン買ってあげるね」

「は?」

「フリフリのレース付いたやつ」

そう言い残してリビングを出ると、後ろから「いらねーよ!」というカンちゃんの声が聞こえた。


いや、絶対にいいと思うんだよね。

……ネタ的に。

もし本当に着てくれたら、写真を撮って親戚中に配ってあげよう。


グロッキーな頭でくだらない事を考えながら着替えを済ませ、リビングに戻ると若妻カンちゃんがちょうど食事の準備を終えたところだった。


「ホントありがとうねー……」

テーブルの上には、白菜と豚バラのミルフィーユ煮。

それが土鍋の中でグツグツ音を立て、いい匂いの湯気を上げている。


椅子に座った私を見たカンちゃんは、「やられてるなぁー」とか言いながら、何故か嬉しそうに笑っているし。


「てゆーかさー、カンちゃんの方が一杯仕事してるのに、何でそんなに余裕あるの?」

前々から思ってはいたんだけど、最近ますますそう思う。

カンちゃんは本当に仕事が出来る人なんだって。


「俺、適当だから。あとは慣れじゃねーの?」

「そうかなぁ……」

でも他の上司と比べても、カンちゃんの仕事のスピードは格段に早い。

“適当”というのも、“適度”であって、きっとカンちゃんが意としている“いい加減”という意味とはかけ離れている。


とにかく、カンちゃんは本当に凄いんだ。