「……あれ?櫻井…?」
突然、名前を呼ばれて……。
私は教室の入口の方へと視線を移す。
「……何してんの?」
「そっちこそ、部活は?」
「これから。てか…、忘れ物取りに来た。」
「ああ、そっか……。」
もの凄いタイミングで……
悠仁の登場。
見られた……?
見られてない??
気になって仕方がないけれど。
そこに触れてこない所をみると……
どうやら、セーフのようだ。
私は大きく安堵の息をついて……、
また、窓の外に目をやった。
「……なる程。確かにかわいい。」
「……は?」
『ふうっ…』っと彼の吐息が……
私のうなじに触れる。
「………!やっぱりアンタだったか」
「……。顔真っ赤。てか、そっちこそネコの鳴き真似しただろ。あれこそ、ナニ?」
「は?なんのこと?」
「……まあいいけどね、別に…。」
それから彼は……、何故か私の隣りに並ぶ。
「………。忘れ物は?」
「ああ、ソレ?忘れてたのはアナタに説教することだったからもー済んだ。」
「………。わざわざ戻ってきてまで?馬鹿だねぇ…。」
「……………。」
優しい雨音が………
静かに、静かに……
教室に響いていた。
「眠い……。」
悠仁が……
窓際の手摺りに顔を伏せる。
「まだ眠いの?散々寝てた癖に。」
「……途中で目が覚めた。」
「またまた…。私が起こさなかったら起きなかったでしょう?」
「起きてたよ。……誰かさんは男にかわいいとか言われて舞い上がってたみたいだけど。」
ホントに起きてたのか。
そしてアレを…聞いてた?
「………。社交辞令だよ、あんなの。初めて言われたから…びっくりしただけ。てか、聞いてたの?」
「常盤は軽々しくそんなこと言う奴じゃないね」
「……。常盤くん、女の子の扱いなれてそうだし、簡単に言っちゃえるのかと思ってた。」
「まあそうかもなー……。」
「どっちよ…。けどさ、アンタこそ言いそうじゃない?深く考えずにサラっと。」
「…………。言ってやろうか?」


