この日、学校にやってきた私は……、
ひたすら。
下を見て…
ひたすら。
俯いて……
嫌でも目立つ彼の存在を、視界に捉えぬようにと…心掛けてはいたものの。
その努力は、
「悠仁様、今日は何だか憂いを帯びているわ。」
…朝イチの習慣、
彼女の戯言…。
それが発せられた瞬間に、全ては水の泡となって…
消えていった。
そんか言葉を聞いたら、気にせずになんていられない。
そろり。と、悠仁の方に顔を向けると…、
「…………?」
なる程、確かに…。
私なんかよりもずっと暗い…どんよりとした雰囲気。
机の上、その一点を…
ぼんやりと見つめる姿。
頭には、生々しく・・・網を被り。
そして…。やはり、彼の頭上には。
アレが……渦巻いていた。
体調でも悪い?
それとも、昨日少しだけ縫った頭の傷が…痛むの?
たどり着くのは、やはりあのキーワード……。
今、急に倒れたりなんかしたら……?
ぐるぐると…色んな思いを脳裏で巡らせていると、
「どーした。体調でも悪い?」
サラリ。と、きっと皆が聞きたいであろう質問を、彼といつもつるんでいる常盤 宏大がいとも簡単に口にして。
彼の背中をバンバンと叩いた。
「ちょ、宏大。一応俺、怪我人。でもって、体調はフツー。」
答えたその声も…
暗い!
「……ああ。ごめん。じゃあ何よ?」
「…実は……」
彼が口を開くと。
クラス全体がしーん…と、静まり返った。
「……死んだんだ。」
……え……?
「家の……」
……ええっ?
「近所の犬が。」
…………。
「…って、犬かよ。」
あさっての方向から…ツッコミの声。
どうやらクラスの連中みんなが……
聞き耳をたてていたらしい。
「…俺が小さい頃からいた犬なんだよ。こっちに来た時はいつも絡んでたし、キャンキャン纏わり付いてうるせーけど…。気ィ向いた時には散歩に連れてったり……なんだかんだずっと……」
悠仁はそこまで言って…
言葉を詰まらせた。
よくよく見ると。
普段キリっとしている眉は下がり……
綺麗な黒目が……
潤んでいる………?!


