悠仁の家族に…会う。
たったそれだけのことに。
わざわざお母さんの許しを乞う必要など…あるのか。
些か…疑問ではあった。
けれど…、このやり取りに。
この、シチュエーションに。
冷静を装っていても…高揚感は否めず。
ドキドキと気持ちを高ぶらせて…彼女の答えを待っていた。
深く物事を捉える程の…余裕もなかったのだ。
「…そう。筋は通して、って…後付けでもそう思ってくれたなら…そこは感謝します。…だけど、七世が行きたいのなら。反対する理由はないと思うけど?」
眉ひとつ…動かさず。
お母さんは、私を…見つめる。
「……悠仁くん。私はあなたとの付き合いに…正直、賛成はできない。理由は……、いえ、ここでは言う必要はないでしょう。ただ、抗うことのできないものだとも…思ってる。アンタ達に委ねる、と言えば…責任逃れかもしれない。けれど、お互いに、後悔だけはしないように…。それだけが。私の…願い。」
この時……、
悠仁がどんな顔をしていたのか。
どんな覚悟を抱えて…ここに居たのか。
私は、全くもって…知らずにいた。
ただ、お母さんの……言葉が。
いつまでもいつまでも…頭の中をこだまして。
どうして…そう思ったのか、
託された…選択肢。
その、選ぶ道は。
どっちをとっても…間違いだと言われているようで。
大きな戸惑いが…生じていた。
私が入れた紅茶は、少し…冷めて。
静かに…それを飲みきって。
柱時計が、また、ひとつ…鳴った頃に。
お母さんに見送られながら――…二人揃って、この家を…出た。
外は、見事な…蝉時雨。
7月24日。
私は、君の家族に…会いに行く。
じんわりと汗ばむ手を、君が…しっかりと握って。
私は、その背中を追うようにして――…道を歩いた。
大好きなアールグレイの味も分からなかったのに。
口の中には…ほんのりと。
まだ、苦味が…残っていた。


