明日ここにいる君へ


雨が、閉め切った窓を叩いて…、割れそうなくらいに。
激しく、どこまでも…強く。

急き立てるようにして――…教室の中へと、その音を轟かせる。


「だから…、しっかり見ててやって。」

常盤くんは、まるで…諭すかのように。
雨音にかき消されるほどに、小さな声で…確かに、そう呟いた。


「……どういう…意味?」

「どうもこうも、そのまんま。3年間…、俺は俺なりの付き合い方で…アイツを見てきた。櫻井に手を出したのも…半分は、アンタを試すためだったり…。」


「…………そう。試されてたんだ、私。それで―…?」


「お陰で櫻井の気持ちはよく分かった。それから、アイツの本気に免じて…お願いしとく。さっき言った通り、アイツが突然姿を消すのは…夏の終わり頃。3年間、それが変わることはなかった。なのに…、この前…、まだ夏の始まりだってのにアクションを起こした。」

「………………。」

「あの時、アイツはどこで、何をしていた?」

「………」

「アイツにとって、それはどんな意味合いがある?」

「……………。」


「アイツは…多分、自信がないんだと思う。こうして俺と話してるだけで…嫉妬心剥き出しになるし、それだけ櫻井に執着してる。どっか…余裕がないくらいに。今アイツにとっての『大切なもの』が…誰なのかなんて、言わなくてもわかるだろ?幸せと絶望とが、紙一重…なんて勘違い起こさせないように、ちゃんと見て、何度も教えてやって。」


幸せと、絶望が…紙一重。


そんなこと、悠仁は本当に…思っているのか?


常盤くんの瞳の中に、嘘が隠れていないかと…
じっと、見つめるけれど。

逸らされることなく… 揺らぐこともない。


「アイツの口から、『死んでもいい』だなんて…、二度と言わせないように。」


「……それは――…」
と、ようやくわたしが…口を開きかけた時だった。


ドンっ!と背中から…大きな音。

常盤くんは肩を僅かに動かして、この場に、緊張が…走る。


―――…が、

彼は「ふうー…」っと大きく息を吐い後、しばらく天を仰いで。

徐々に口元を…緩めていく。



「……ホラね。やっぱり…邪魔が入った。」


「え?」


親指を、ドアの方へと突き立てるように指して…から、ニヤリと笑って見せる。

さっきまでの神妙さは…、どこにもない。





「お前ら…、そこで、何してんの?」

扉の向こう側から、低く…冷たく刺さるような…声。


姿は見えなくても。
例え、本人の声色とは…違っていても。

私は、私たちが、それが誰のものであるかだなんて…判らない筈も、ない。



「宏大。オマエ、どういうつもり?」


「……別に…。俺らが話してんのって…おかしいこと?」


「ハ?」

「話だけじゃあないかもしれないけどね。」

常盤くんは、わざわざ煽るような…言葉を選んで。


それから、私に『シーっ』と、ジェスチャーしては…両者、沈黙を貫く。


「七世。聞いてる?」


「……………。」


返答に…、困る。
果たして、常盤くんの思惑に…乗ってみてもいいのか。

ただ、悠仁が…どんな行動にでるのか、という1点に興味が絞られてしまったことに…後ろめたさもあったけれど。

この駆け引きで…君の気持ちの赴きを、まだ知らぬ君の一部を。

知りたかった。




「甘い。」


「……………。……ハ?」


「脇が甘いっての。」

「…………。」


「要約すると…『アホ』。……以上、お疲れ~。」


「「……………………。」」


ドアの外が…、しんっと静まりかえる。


「…………ちょっと…。」

修羅場でもあれば…すぐさま弁明だって出来るのに。

たったの二言で…突き放して…終わり?