明日ここにいる君へ

常盤くんは、私の反応をひとつひとつ確かめながら…

じっと様子を窺っているようだった。


話の核心を切り出す、そのタイミングを…見計らうようにして。


「余りにもそんなんだから…、1度だけ、聞いたことがあったんだ。『お前は逃げてんのか?』って。そしたらさ、返ってきたのが…『惜しい、その反対。』って言葉。」

「反対…?」

「そう。『大切なものは、いつも逃げていくんだ』って。」

「……………?どういう…こと?」

「これも前に言ったけど…、中学んときもフラッと居なくなったことがあるって話…。」

「………うん。」

「いつも…夏の終わり頃だった。けど、3年続くと…気になるじゃん。どこ行ってたのか、聞いても教えてくれないと思い込んでたんだけど…、思いきって聞いてみたら、ちゃんと教えてくれた。しかも、相当ケロっとした感じで。」


「……………。」

「……墓…、だったんだ。」

「お墓?……誰の?」

「……家族。」

「……!」


「アイツが言う『大切なもの』ってのが…、その意味が。初めて分かった気がした。いつ、何があったのかは分からないけど…、おそらく、ひとつだけじゃない。それだけは…言える。アイツのばあちゃんが亡くなったのは中学の時だったし、それ以前にも…多分。考えて見たら、そもそも…アイツが家族の話をしてきたこともなかったし、会ったこともない。『逃げていく』っていう言葉にも…引っ掛かりがあった。まるでそれじゃあ、自分が原因だって言ってるみたいだろ?」

「……………。」


「もし、仮にそうだと感じてたのなら…、怖かったのかな…、人と深く付き合うことが。だから…、表面上は明るくて、いいヤツで、それでいて…決して深入りしない。」

「………そう。」

「……冷静だね、櫻井。驚かないの?」


驚いていないワケではない。

悠仁、アンタが口数少ないながらにポツリとこぼした言葉に…私の中でもずっと、引っ掛かかるものがあったから。

気にはなっていても、訊ねる勇気も…なかった。

だから――…、きっと。触れてはいけない部分なのだ、と――…自ずと避けていた。


自分のことを知らなくてもいいって…言った。

お弁当のことだって、そういう状況になれば…、と言葉を濁して、多くを語ろうとしなかった。


「中1の5月くらいかな?アイツがこの街に引っ越して来たのは。それまでは、ばあちゃんと同居してたらしいんだけど、そのばあちゃんが中1の終わりくらいに亡くなって…、それからかな。笑ってるんだけど、はしゃいでいるんだけど、どこか…違和感があるっていうか。て言っても、根本的には変わってないんだけどね。」









私が…、アンタのことを知らな過ぎるのも。

下手に詮索などしたくないって、聞き出す前に、ブレーキをかけてしまうから?

それとも、アンタが…隠そうとしてるから?



「………前から…櫻井のことを気にしていた節はあった。そのくせ、話しかけようとはしないし、なんかなあ、なんなんだろうっておもってたら。あれよこれよといううちに…一気に近づいてるし。アイツにとって、櫻井だけは…何かが違ってたんだろうね。お陰で俺まで気になる羽目に。あ、今のは余談。」

「……………。」