明日ここにいる君へ

本当は…、どこに連れて行かれるのだろうなんて…、警戒する自分もいた。

けれど――、常盤くんは彼の言ったその言葉通りに。
元いた教室へと…戻って来ただけで、握られた手も…ドアをパタンと閉じたのとほぼ同時に、アッサリと…解放されたのだった。


「今頃アイツ、櫻井いなくて焦ってるかな。……焦ってるよな。――…ヤベ、想像しただけで可笑しい。」


「………。」

さっきまで握られていた手に…まだ、熱が籠っていた。


「あ。誤解しないでね。別にからかおうとか、意地悪しようとかじゃなくって…」


「……………。」

「ただ、こうでもしないと、もう二人きりじゃあなかなか話せそうになかったから。」

彼の瞳に…嘘が隠されているとは、到底思えないくらいに。

真っ直ぐで…澄んだ視線が。
私へと…向けられている。

「明日から夏休みになるし、このまま悪者になっておくのも正直嫌だ。」

「……『悪者』?」

「うん。なんだかんだで、櫻井優しいところあるじゃん?俺んとこ、警戒してる割には避けることもしない。だから、そろそろ悪者役は返上。イチ友人として……ちゃんと伝えておこうと思ってさ。…アイツのこと。」

「……悠仁のこと?」

「そう。前に…俺が櫻井に言ったこと、覚えてる?結構酷いこと…言ったね。」

「…………?」

「『櫻井がアイツを好きだとしても、どうなるってことは…ない』。」

「……ああ。言われたね、そんなこと…。」

「あの時、本当にそうじゃないかって思ってたから…嘘をついたワケじゃあない。けど…実際は、違った。」

「…………。そう思う根拠が…あったんでしょう?常盤くんは、狡くても…嘘はつかない。今更責める気もないし、無駄だって言われたことも、無駄にはならなかった。それだけ。」

「……そう。それだけのことかも…しれない。けど、少なくとも俺は、まだ櫻井よりもアイツを知ってるつもり。だから、話すよ。これが…今までの悠仁だったって何処かで覚えていて欲しい。これからずっと付き合っていくなら…。」

「………わかった。続けて…、話。」