明日ここにいる君へ


HRを終えて…、生徒達が、続々と廊下へと並ぶ。


私は背が低いけれど、辛うじて…二番目に。
反対に…、大きい悠仁は、列の後方に。

これまで気にもならなくて、振り返ることもなかった背中が…妙に気になる。

自意識過剰かも…しれないけれど、図らずとも悠仁の視界に入ってしまうのだろうから…仕方ない。


「七世―、後ろの髪の毛跳ねてるよ?」

真後ろに並ぶ女子からの指摘に…ドキリ、として。何度も…髪を撫でる。


「直った?」

「気になる程でもないし、大丈夫!」

「……………。」

気になるから言ったんでしょう?って、突っ込みたくなったけれど…、黙っておいた。

何故なら…、そのやり取りの直後、たまたまなのか――…

背後から、君が笑うその声が…聞こえて来たから。


『一緒に登校したのに気づかなかったの?』
そんな怨念を込めて、ここでようやく振り返って、ヤツを…睨む。

―――が…、

空回り…だったのか。

ヤツはこっちに背を向けて、後ろの常盤くんと話している。

自意識過剰とは、このことだ。

急激に恥ずかしくなった私は・・・
「教えてくれて、ありがとう」なんて、気にしてない素振りをすることで、羞恥心を取り繕ってみた。








生徒達は、体育館へと向かうべく…列を成したまま歩み始めた。

階段に差し掛かり、亀の如くゆっくりと―…1段1段下る。

人混みで…入り口が込んでいるのか、時おり流れが止まる。
別に急ぐ理由もないから、従順にそれに従って進んでいくと――…


唐突に『ずしり』と…、頭の上に重力ががのし掛かった。



「……ちょっと!……何…?」


その、犯人…登坂悠仁。


「ん――…。肘を置くのに丁度いい高さだな、って。」


「やめてよ。髪、乱れるじゃない。」

「……そーきたか。……大丈夫、こうしてると寝癖も直っちゃうかもよ?」

ん?寝癖…?


チラリ、と、隣りに並ぶ悠仁へと…視線を移すと。
若干の…含み笑い。


「……やっぱり聞こえてたんじゃない。」


「……何のこと?」

「ううん。何でもない。」


優しい重みが…少し、心地良い。



「お前ら…コレ、何の嫌がらせ?ホラ、前、前。進んでる」


真後ろにいた常盤くんからの指摘に、ドキリ、と動悸が走る。

一方の悠仁は「悪い?」なんて…ニヤリと笑って見せると、

前方で手を振る、他のクラスの友人の元へとさっさと先へと歩いて行ってしまった。

肩を組んで談笑する二人の笑い声が、こっちまで聞こえてくる。
「……本当、仲いいって言うか何て言うか…。」
はあー、と大きく溜め息をついて、今度は常盤君が私と並行して歩く。

「あの人、サッカー部の人だよね。ホント、交友関係広いなあ」


「アイツ、櫻井に構いたくてしょうがないんだろうなあ…。その気持ちはよく分かる。」

「……………。」
アラ。私のことでしたか。



「……あー…、アタマ痛え…。」

「………?常盤くん?」

「…キッツいな。」

「具合悪いの?」

常盤くんは突如大きな掌で、頭を押さえ付けるようにして。おまけに…痛みが走るのか、顔も歪めていて。一見して苦しそうな様子に様変わりしている。

「ねえ、ちょっと酷そう。保健室で休んだ方が…」

「あー…、うん。いいや教室戻るから。」

「大丈夫?私、先生に断っておくよ。」

「…………。うーん、惜しい。」

「………え?」

「…櫻井。悪いんだけどさー……」

「……………?」

「ちょっと付き合って。」


俯いた顔。
前髪の隙間から覗かせた瞳が…なんと。悪戯っ子みたいに笑ってる!

「……え、なん…」

言葉を発するまでにも…至らぬまま、常盤くんに確保された腕は…振り払おうにも、力負けして。


「シンちゃん、櫻井体調悪いみたいだから…俺、保健室に連れてくね。先生に、そう伝えて。」

間髪置かずに、後方に並ぶシンに向かってそんな断りをいれてしまうのだから…いよいよ拒否もしづらくなって。

「ちょっと、大丈夫~?私行こうか?それとも、悠仁…」

「シンちゃん!」

おまけに、鼻の先に『しーっ』と人指し指を立てては……シンの許可を乞う。


「…………楽しそうだから…まあ、いっか。」

「……シン!」

「あはは、人前でイチャついた罰よ~。んじゃ、常盤くん、お大事に~。」




本人の意思を無視した、強制連行。

人の流れに逆らって…二人で戻っていく姿が。悠仁の耳にどう届いてしまうのだろうと…ハラハラしながら、それでも、掴まれた腕が…本当は痛くもないくらいに加減されていることに気づいて。
少しだけ…胸が痛んだ。