灰色の…雲。
ぱら、ぱら、と――…傘の上で弾かれる雨音。
時折吹き荒れる…風に、何度も手元を狂わされて。
しっかりと…握り直しては、逆風の中を…押し進む。
例え視界を遮られても…、君が待つその場所へは、自分がもつ感覚1つで…辿り着くことが、出来るだろう。
周りの景色を眺めるでもなく、ただ、濡れたアスファルトを…なぞるようにして歩いているだけで。
慣れ親しんだ感覚が…五感が…、研ぎ澄まされる。
『ここだよ』
そう――…自分を止める声が聴こえる気がして。
ふと、足を止めて――…
見上げる。
その、瞬間に。
――…刹那に。
私は、何度も胸を……焦がすのだ。
―――…と、その時だった。
傘が…ふわりと持ち上がったかと思うと、ソレはいとも簡単に…手元から離れて。路面を擦るように、鈍い音を立てては…風にさらわれて行った。
「なーにしてんの、朝から。」
それが辿り着いたのは…君の足元で。
ひょい、っと掬い上げたのも…当然、君で。
「……あれ、悠仁。…おはよう。」
君の顔を見上げる…その時が。
多分、自分が一番素直になれる瞬間なのかも…しれない。
「ツンデレ絶好調だな。まずは『ありがとう』じゃねーのかよ。」
「……『ありがとう』。」
「ハイハイ、どういたしまして。」
悠仁はそう言うのと同時に、自分の傘を…私の頭上に掲げる。
器用に私の傘を…閉じて、「今度は逃げないようにしとけ。」って言うけれど。
柄を握る私の手を…そっくり包み込むようにして、君が握ってしまっているのだから、逃げ場など…、ない。
「どっちが…ツンデレよ。」
蕾は、蕾のまま。
雨の日に咲くのは…、いつもいつも、一輪の花。
二人で1つの…雨降花。


