「………。ごめん。」
「…………。ん?」
「…だから、……ごめんね。」
「―――……。何で、謝んの?」
掌に伝わる温もりが、不意に…消えていく。
「七世、俺に謝まるようなこと…、なんかしたっけ。」
「……………。正直…分からない。だから…ごめん。」
「……ソッチの『ごめん』、か………。」
悠仁が…少し寂しそうに笑う。
「……それから、ありがとう。」
「……?別に感謝されるよーなこと、してないよね?」
「……見ててくれたから。」
「………?」
「悠仁は、多分、私より私を知ってる。それが…嬉しいから。」
私は君の目の前に。
リストバンドを嵌めた腕を…伸ばす。
「ちょっとだけ、悔しいけどね。もう少し私も―…アンタのことが分かればいいのに。」
この手を握るのは、悠仁だけ。
その証が……、ちゃんと、ここにある。
恋愛の経験なんてない。
君のように…、駆け引きなんてできない。
それでも。
損得ナシで…向き合いたいって気持ちだけは、嘘じゃない。
「……………。七世は分かんなくていいよ。」
悠仁がその手を取って…、ポツリと呟く。
「てか、七世でも、可愛い時があるんだな。」
「……ハ…?」
「うん、今のはカワイイ。」
「…………。……喧嘩…売ってる?」
「……喧嘩して離れてる方が勿体ない。なるようになる、気張っても、なーんも考えなくても、時間は経つ。自分の心赴くまま、今をのんびり過ごす。先のことは、先のこと。」
「「…………………。」」
「………だろ?」
ひょいっと手を持ち上げられて。
手の甲に…そっと君の唇が触れる。
「………だね。」
そう言って。
悠仁が私の手を握るそれよりも…強く。
私は、ギュっと…力を込めた。
穏やかな…顔をしているのに。
少し目が…潤んでいるようにも見えた。
この、月明かりの…せいだろうか?
ユラユラと……君の瞳を揺らしているのは。
それから―――…ずっと。
会話もないまま、あっという間に家の前まで…辿り着いた。
「送ってくれて…ありがとう。」
「……ん。」
「「………………。」」
―――…離れがたい。
君も…、そう思っているのだろうか。
「………あの…、悠仁。……手。」
離してくれないと、家の中に入れないでしょう?
「………ああ。」
キョトン、とした顔して。
君は…パッと手を離す。
「……じゃあ、……また、明日。」
「………………。」
「……悠…仁?」
「…………。……ごめん、七世。」
「……………?え?」
「俺、今から…すげー勝手で、最低なことするから。」
「………?」
「許して。」


