その願いは……、
悠仁の手によって。打ち止められた。
しっかりとタオルの端は掴み取られ、
重力に逆らうことなく……それは、影をすり抜けるのみだった。
君は汗を拭いてから、タオルを首に掛け……
真面目なカオして、こっちを見ていた。
「………で。……なんでここに来たの?」
わざわざ…周囲に聞こえるくらいに、ハッキリと。声を…大にして。
意地悪な質問で…私を追い詰める。
ギャラリーから、
コートから、
沢山の目が……
私達の、このやり取りを見ている。
「………ってるから…」
「あ?……聞こえない。もうちょい声張って。」
「だから、待ってるの!!」
「……何を?ああ、試合?今、バスケにハマってんだっけ。」
「………そうじゃなくて。人を待ってんの!」
「へえ。……誰?」
「誰って……。」
「あー。もしかして、好きな人だったり?」
何故、今…この場所で。
君と…対峙しているのに。
わかって…いる癖に。
私は……
さっき、君がそうしたように。
人差し指を…君に向けて。
「………アンタだよ。」
って。
自分に出来る精一杯で…答えたつもりだった。
なのに……、だ。
「・・・ウソ、俺?」
どういった…思惑か。
精一杯の勇気は…、よりにもよって疑問符で、はね返されてしまう。
余計なことをしなくても、君の隣りに…居れるんじゃないかって…思ってた。
待って、待って…ひたすら待って。
後悔なんてうんざりだって、思った側から。後悔だらけ。
君が朝…、手を繋いでくれたのは。
私から、動いたから。
登坂悠仁って人は、そういう人だ。
駆け引きしては……相手の気持ちを推し測る。
全く、攻略しづらい男だ。
「……一緒に帰ろ。」
「………………。」
「そんなに可笑しい?待ってるのが。」
「………………。ふーん。…了解。」
それは……、私の発言を認めたのか、それとも…そうじゃないのか、あやふやな返事だったけれど。
「まーた熱上がった?」
口の端っこが……キュッと上がっていたから。
私はきっと……彼の策略にハマっていたのだろう。
「俺、タオルあるから…アンタはコッチで拭けば?」
そう言って、君は突然、ギャラリーに何かを投げ込んで来た。
キャッチしたソレは。
悠仁が腕につけていた…リストバンド。
「あとで返せよ?」
……だって。


