「……ごめん。 私…、先に行くから。」
私は、潰していた内履きのかかとをしっかと履き直して。
目を…逸らした。
常盤くんの思惑に、囚われそうになる自分が…怖くて。
早足で、先を歩いて行った。
教室の扉を開けると、皆の視線が一気にこちらへと向けられた。
「……櫻井…、と、常盤。遅刻っと。」
担任が出席簿に何かを記入する。
急いで歩いたはずなのに。
これではまるで…、一緒に登校してきたみたいだ。
「……アレ?登坂は?」
「………!」
担任が溢した一言に。
私の身体が…勝手に強張る。
「連絡、ないんですか?」
「ああ。お前ら仲いいだろー?どっちか、何か聞いてないのか?」
「………。」
常盤くんが、自分の椅子を引きながら…首を横に振った。
「そうか。……寝坊かー?しょうがないヤツだなあ。」
先生は、アタマを掻きながら…さも、大したことでもないように…受け流す。
ちらり、と常盤くんに視線を移すと。
彼もまた――…
まるで何事も無かったかのように、「ほらね。」と言わんばかりに微笑んだ。
彼が…休むことに。
焦燥感を抱いているのは……私だけ。
つまりは――…、だ。
悠仁が、病床にに伏すなどとは…誰も思ってはいないってことだ。
先生も…、常盤くんも。
彼の頭上に渦巻く黒の正体―――…、
その…理由のひとつが。
消滅することに…なる。


