「…なあ、ちなみに、父さんの愛人の名前ってわかる?」 「ああ。忘れたいけど覚えてるよ。確か…」 俺の思い浮かぶ人物でないことを祈った。 「井上紗耶香。」 井上…。俺の思っていた人物と同じだった。でも、井上なんてたくさんいる。珍しくもない。もしかしたら名字が同じだけかもしれない。 「息子の名前は?」 「それはわからないな。」 「…そう。」 さっきのすっきりした気持ちは、この短時間で、またモヤモヤしたものに変わった。