あの夏よりも、遠いところへ


夏休みは好きじゃない。

わざわざ一緒に遊ぶほど仲の良い友達はいないし、だからといって家にいるのが快適なわけでもないから。


けれど今年は、陽斗に会える。会いに行く。

こんなにわくわくする夏休みって、生まれてはじめてかもしれないな。


「雪ちゃんは?」

「え?」

「雪ちゃんは夏休み、陽斗に会わないの?」


なんとなく気になった。子どもじみた、馬鹿馬鹿しい質問だとは分かっていても、せずにはいられなかった。

だって、雪ちゃんの表情にはどこか余裕があるんだもん。胸がざわざわする。


「うーん、どうだろう。会えたらいいなって、私は思ってるけど。……どうだろうね、えへへ」


会うんだ。きっと雪ちゃんと陽斗も、夏休み、会うんだ。

どうしてわたしはふたりと同じクラスにいないんだろう。

ふたりは毎日、どんな言葉を交わして、どんなことをしているの?

悔しいよ。たった2年遅く生まれてきただけなのに、わたしはいつも雪ちゃんには追いつかない。


「時々、一緒にピアノを弾いてるんだ」

「えっ……?」

「だから夏休みもそういうのができたらいいなあって、私の勝手な願望なんだけどね。恥ずかしい」


いつからなの、とか、どこで、とか。色々と訊きたいことはあったけれど、なにひとつ言葉にならないまま胸の奥に沈んでしまった。

あたりまえのように毎日陽斗に会える雪ちゃんは、ずるい。わたしよりたった2年早く生まれてきただけなのにさ。