あの夏よりも、遠いところへ

 ◇◇

雪ちゃんに申し訳なくて、なんだかあの丘には行けなかった。

陽斗は雪ちゃんの好きなひと。そう思うと、わたしなんかが会いに行けるわけないじゃん。


「そういえば、立川くんが朝日ちゃんのこと気にしてたよ」


雪ちゃんは最近、『立川くん』の話をよくするようになった。それはそれはとても幸せそうな顔で。

順調にいっているのかな。雪ちゃんは分かりやすいから、順調なんだろうな。


「最近はちゃんと学校に行ってるのかって」

「行ってるし。失礼だなって伝えといてよ」

「ふふ、分かった」


頬をほんのり赤らめて小さく笑う雪ちゃんに、なぜだか少しむかついた。

これ、たぶん嫉妬ってやつだ。胸の奥のもやもやがまた増えた。嫌だな。


「それと、会いたいって」

「えっ?」

「また話したいって、言ってたよ」


……ほんとう? 陽斗が、わたしに?


「もう少しで夏休みだし、朝日ちゃんも時間あるでしょ?」

「……うん」

「朝日ちゃんと立川くん、気が合いそうだもんね」


わたしって、自分で思っているよりもずっと、単純で簡単な人間なのかもしれない。

変なの。たった一度、しかも数時間しか会ったことのないひとのはずなのに。雪ちゃんの好きなひとのはずなのに。

……だけど、わたしだって、自分で陽斗を見つけたんだ。