まあ、勘が悪くたって、雪ちゃんの気持ちは丸分かりなんだろうけど。
「……べつに。ピアノ上手だって。褒めてたよ、完璧だってさ」
好きなんだ、雪ちゃんも。陽斗のこと、好きなんだ。
なんだよ。こんなに見た目も性格も違うのに、そういうところだけしっかり姉妹だなんて、むかつく。
「立川くんも、ピアノ上手なんだよ」
「お父さんがピアニストなんだってね」
「うん、うん、でも、立川くんもすっごく上手なの。優しいピアノを弾くの」
わたしが聴いたことのない陽斗のピアノを、雪ちゃんは聴いたことがあるんだ。そりゃそうか。わたしはきょう会ったばかりだし。
「雪ちゃんはさ、陽斗と仲が良いの?」
「よくないよ。あんまり話したこともないもん」
「へえ、そうなんだ」
「うん。だからいま、朝日ちゃんが当たり前みたいに『陽斗』って呼んだことに、すごくびっくりしてる」
あ……しまった。眉を下げて淋しそうに笑う雪ちゃんに、なぜだかおかしな罪悪感を覚えて、思わず口をつぐんだ。
でも、ちょっとだけ。ちょっとだけ、優越感もある。
雪ちゃんができないことを、わたしはいま、簡単にしてみせたんだ。すごい。
「……私、立川くんに嫌われてるみたいだから」
「えっ?」
「目が合ったことがないの。必要最低限しか話さないし」
それはわりと、誰にでもそうな気がするんだけどなあ。陽斗の性格的に。
そんなことでいちいち傷付いてみせる雪ちゃんはとてもオンナノコで、とうていわたしは敵わないような気がした。



