あの夏よりも、遠いところへ

 ◇◇

お母さんのヒステリーは物凄かった。予想はしていたけど、ここまでとは想像できていなかった。


「朝日! きょう学校から連絡があったわよ!」

「あー、うん」

「どこでなにしてたの!? 学校さぼるなんて考えられないわよ!」


そりゃ、ずっと雪ちゃんのことかわいがってるお母さんには考えられないだろうね。


「黙ってないでなにか言いなさい!」


わたしがなにか言ってもどうせ怒るだけのくせに。

しゃべっても黙っても怒られるのなら、なにも言わないほうが得策だ。だってそんなのしゃべり損だよ。


「聞いてるの!?」

「うるさいな。放っておいてよ」


上手く言葉にできない。

ただもやもやしたものが胸の下のほうに沈殿して、全然浮かんできてくれない。

わたしにも手の届かないところを、どうしてそんなに簡単に踏み荒らそうとするの。入ってこないでよ。

いいじゃん。わたしになんか構わず、雪ちゃんのことだけかわいがっていればさ。


「朝日!」


きょうも階段の下から響くお母さんの声に苛々して、わざと大きな足音を立てた。

うるさいな。頭痛い。むかつく。

陽斗と過ごした時間が嘘みたい。この家は、わたしの嫌いなものばかりだ。