ふいっと目を逸らしたわたしに、陽斗は遠慮がちに声を掛ける。
「ねえ。家でもあんな完璧な女の子なの? 北野さん」
「うん」
「へえ。すごいやつってのは、どこに行ってなにをしてもすごいんだな」
そうだな。昔から、完璧じゃない雪ちゃんを見たことってないかもしれない。
いつも優しい微笑みを浮かべていて、きれいな言葉を使う雪ちゃん。誰からも愛される、かわいい雪ちゃん。
わたしの自慢のお姉ちゃん。
「……雪ちゃんは、わたしの自慢だから」
「そうは見えないけど」
「自慢だよ。雪ちゃんのこと、大好きだもん」
「嘘だ」
「本当だよっ!」
むきになるなんてかっこ悪いな。
苛々する。腹立つよ。なんなんだよ、立川陽斗。
「そう思ってないと、自分が潰れそうになるだけだろ」
殴ってやりたい。けれど殴れなかったのは、あまりにもその言葉が的を得すぎていたからだ。
「朝日ってさ、褒められたことないんじゃないの?」
褒められるわけないよ。あんな完璧な姉の隣にいるわたしの、どこを褒めたくなるっていうの。
あたりまえじゃん。わたしが親でも雪ちゃんだけをかわいがりたくなるっての。馬鹿みたい。
どうしてわたし、生まれてきたんだろう。どうして雪ちゃんの妹に生まれてきたんだろう。



