あの夏よりも、遠いところへ


ふいっと目を逸らしたわたしに、陽斗は遠慮がちに声を掛ける。


「ねえ。家でもあんな完璧な女の子なの? 北野さん」

「うん」

「へえ。すごいやつってのは、どこに行ってなにをしてもすごいんだな」


そうだな。昔から、完璧じゃない雪ちゃんを見たことってないかもしれない。

いつも優しい微笑みを浮かべていて、きれいな言葉を使う雪ちゃん。誰からも愛される、かわいい雪ちゃん。

わたしの自慢のお姉ちゃん。


「……雪ちゃんは、わたしの自慢だから」

「そうは見えないけど」

「自慢だよ。雪ちゃんのこと、大好きだもん」

「嘘だ」

「本当だよっ!」


むきになるなんてかっこ悪いな。

苛々する。腹立つよ。なんなんだよ、立川陽斗。


「そう思ってないと、自分が潰れそうになるだけだろ」


殴ってやりたい。けれど殴れなかったのは、あまりにもその言葉が的を得すぎていたからだ。


「朝日ってさ、褒められたことないんじゃないの?」


褒められるわけないよ。あんな完璧な姉の隣にいるわたしの、どこを褒めたくなるっていうの。

あたりまえじゃん。わたしが親でも雪ちゃんだけをかわいがりたくなるっての。馬鹿みたい。

どうしてわたし、生まれてきたんだろう。どうして雪ちゃんの妹に生まれてきたんだろう。