あの夏よりも、遠いところへ


雪ちゃんの高校の男子の制服、はじめて見た。そういえば似ていないこともないかもしれない。

……最悪だ。よりによって雪ちゃんの知り合いだったなんて。いますぐ死にたい。


「そっか、北野さんの妹か。似てないから気付かなかった。それに、まさかあの北野さんの妹が学校さぼるなんて思わないし」

「どうせ雪ちゃんと違って、わたしはダメな妹ですよーだ」

「はは。たしかに、あんなお姉さんがいたら嫌になるかもな」


ダメな妹という部分にフォローを入れないところが腹立たしいな、立川陽斗。


「北野さん、ピアノ上手いよな」

「学校でも弾いたりしてるの?」

「うん。入学当初から色んなところでピアノ伴奏させられてる。あんな演奏されたら、父親がピアニストだなんて言えないじゃん」


もしかして、このひとも雪ちゃんにコンプレックスを抱いているのかな。わたしと同じ。

ぶわっと風が吹いて、彼の髪を後ろになびかせた。その隙間から見えた表情は淋しそうで、わたしはなにも言えない。


「……そっか、北野さんの妹かあ」


もう一度さっきと同じ台詞をつぶやいた陽斗が、わたしのほうを見て微笑んだ。

その瞳には親しみのこもっていて、なんだか嫌だ。『北野さんの妹』って、すごく嫌だ。

たしかにわたしは雪ちゃんの妹だけど、北野朝日っていう人間でもあるんだよ。