あの夏よりも、遠いところへ


完全にここを去るタイミングを失ってしまった。

振り返ると、朝日が目を刺すほどに輝いていて、鳥肌が立った。わたし、なに学校に向かおうとしているんだろう。馬鹿馬鹿しい。

ここまできて怖気づくなんて、かっこ悪いや。


「……朝日だよ」

「うん。きょう、ほんとに天気いい」

「そうじゃなくて! わたし、朝日って名前なの」


眠たそうに細められていた目が、まあるく開く。


「へえ。いい名前じゃん」

「そんなことない。名前負けしてるし」

「してないっしょ。朝っぱらから朝日に向かって大声で叫んでんだもんな」


完全に馬鹿にされている。

目を伏せて笑った頬に睫毛の影が落ちた。きれいな顔しているんだな。せっかくなら、もう少し前髪を切ればいいのに。


「でも、苗字と合わせると本当に最悪なんだよ」

「苗字?」

「北野(きたの)っていうの。北野朝日って、おかしいでしょ。朝日は東から昇るのにさ」


自分の名前、とっても嫌い。朝日どころか、太陽は北には輝かないっての。

本当、そんなくだらないことにもお父さんとお母さんに腹が立つんだから、しょうもないな。


「……ははっ、そんなの言われなきゃ分かんないよ」


他人事だと思って笑い飛ばす彼にも腹が立って、いますぐにでもあの朝日を地球の裏側に沈めてやりたくなる。