あの夏よりも、遠いところへ


たぶん高校生だと思う。見たことのない制服だけれど。


「……あの」


2メートル向こうの彼に声を掛けると、その左目だけが開いて、わたしに視線を向けた。

気だるそうな顔。きっとこのひと、本当に寝ていたんだ。こんな場所で。


「高校生……ですよね?」

「だったらなに?」

「学校は?」

「いやいや、そっちも中学生っしょ」


さぼり、なのかな。

わたしと同じ? 学校に向かおうとしたけれど、途中で嫌になってしまったパターンか。


「……きょう、天気いいから」

「え?」

「こんな天気のいい日に学校行くなんて、なんかもったいないじゃん」


このひとはなにを言っているんだろう。天気がいいから学校に行かないって、いったいどういうことなの。

そうですねと小声でつぶやいて、忍び足でその場を離れた。もしかしたらアブナイ部類の人間かもしれない。


なんだか現実に引き戻されてしまったな。

……ああ、やばい。いまから行っても1限に間に合うかな。さぼったことをお母さんに知られたら、きっとまた面倒くさい。


「――行くの?」

「えっ」

「学校。いまから行くの?」


いつの間にかむくりと起き上がっていた彼の声が、丘を下りかけているわたしを捕まえる。


「すごいね」

「え……なにが?」

「おれだったら絶対行かないや」


ふわふわの黒髪を揺らして、彼がへらりと笑った。わたしよりも年上なのだろうけれど、意外とかわいい顔をしているんだな。

こんなふうに堂々と学校をさぼるくせに。